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そして:マゾ奴隷のしつけ方4
排泄の快感に病みつきになりそうだと思ったオレは根っからのマゾでしかなかった。
そして彼氏はさすが彼氏だった。ビックリするほどに彼氏だ。
袋やタオルを持ってきて玄関マットを片付けて汚れたオレのズボンを脱がしてくれた。
上がすでに脱いだ状況だったので完全に裸になったがそれを気にする間もなくタオルで綺麗にされた。
彼氏力が高すぎてときめかざるえない。普通はシモの世話なんてイヤに決まっている。幻滅ものだし縁を切るレベルのものだ。
嫌悪感もなくオレの身体をふいて床掃除の段取りを考えている彼氏は一流の職人のようだ。
粗相をしたことを謝ることもできずに玄関の壁に張り付いて小さくなった。
気持ちとしては情けなくて恥ずかしくて居た堪れないのだが漂う精液と小便の匂いに興奮する。
「アンタ、マジでサルだな」
オレの股間を見て冷静に指摘してくる彼氏。
呆れたような流し目に気持ちよくなるあたり、オレは彼氏の言うとおりサル並みの精力なのかもしれない。
サルが本当に性欲が強いのかはともかくオレはタオルで触られて反応し始めている。
これはタオルだけが原因じゃない。
彼氏の家の玄関先で射精して小便してそれを片付けてもらっているという一連の流れ、それに興奮している。
鏡を見ることによって自分を客観的に観察することになる。
自分で自分を責めているような倒錯的な気持ちにすらなった。
はしたなく興奮している姿を彼氏だけではなく自分も見ている。
最初は特に複数の鏡で囲まれていたので目をそらせなかった。
思い出して高ぶれるエコなオレ。
「なんでサルになったんだ? うまれつき?」
「別にサルじゃ……ねえよ」
「サルだろ、サル。俺の口が悪いのはうまれつきだけど」
「今まで演技してたのか? 騙してたのかよ」
「……好きな相手には嫌われたくねえから気を遣うだろ」
だから、強い口調にならないように言葉を飲み込んでいたらしい。
オレを前にしてどもるのは怖がっていたのではなく癖のように「アンタ、バカ?」と言ってしまうからだと教えてくれた。
そんなにバカな行動はとっていないつもりだが人の家の玄関で漏らしているのはバカなことをしているかもしれない。
淡々と処理している彼氏に勘違いしそうになるが相当おかしな状況だ。
オレは被虐の悦びに浸りたがっていたマゾ野郎だが、彼氏からの攻撃は予想外だ。
今まで想像もしていない羞恥プレイ。
従属するにしても暴力で無理やり言うことを聞かせるなんてものではなく精神的な圧力をかけてくるレベルの高いやり方。
前立腺をこすられたり殴られたりすることなくオレは射精した。
その後のお漏らしも最高に気持ちよかった。
言葉責めと足の裏や足の指で胸をすこし弄られただけで肉体的には怪我一つない。それなのに気持ちがいい。
間違いなく新しい扉を開いた。
首を絞められたり殴られまくったりするのと同じレベルかそれ以上の気持ちの良さを味わってしまった。
彼氏は間違いなくオレの性癖を見破っている。
オレが求めていたものとは違う方面だと感じたけれど好き嫌いはいけない。
気持ちがいいならそれが正しい。
「まあ、好きでも浮気されればムカつくし、大切なものを壊されて簡単には許さねえ。
なあなあにして誤魔化すのとかイヤだから一旦リセットっていうか禊(みそぎ)? を済ませればいいよ」
オレはやっぱり彼氏の性格をきちんと理解していなかった。
小動物的で平凡とか純朴なタイプだと思っていたが男らしい。
やっちまったものは仕方ないと口にする彼氏はものすごく心が広い気がする。
「……そーだな、あの不良にイカされた数以上イケたらチャラな」
さらっと言われてしまったがこれはこれでハードルが高い許しの条件だ。
「彼氏だから協力してやるよ」
安心しろとでもいうようにオレの背中を撫でる彼氏。
彼氏の容姿は変わりないのに格好いいと思うオレはどうにかなってしまっている。
胸がときめくのはオレが泣いても喚いても彼氏が決定を覆しそうにないところにあるんだろう。
やれと言ったら彼氏はやらせるタイプだ。
玄関でオレに漏らさせた男だ。
それを平気で片づけて次の提案がコレ。
冗談なわけがないし、中途半端で終わらせることもない。
有言実行させること間違いなしの強い意志を感じる。
本能とでもいうべきものが彼氏はヤバイ人だとオレに教えている。
普通なら関わり合いになってはいけない人間かもしれない。
だが、オレはどうしようもないマゾだった。
人に虐げられ管理されたい。
変態的なマゾ願望をくすぶらせて今まで生きてきた。
オレが理想的だと考えたご主人様の性質を彼氏は間違いなく持っている。
淫乱でも見苦しくてもオレのことを見捨てそうにない。
自分の言葉を聞くのが当然だというような態度で無茶な指示を出してくる。
こちらを支配しようとして暴力に訴えるのではなく、すでに自分の手の内にあると思っている顔。
総長は言ってしまうと余裕がなかった。
がつがつと殴りつけてくる姿は焦りをにじませているよう。
もしかしたらそれはオレを殴りつけることで快感を覚えるサディストではないからかもしれない。
彼氏とオレを引き離したいから殴っているだけで人を殴ることに興味がないというのはありえる話だ。
ケンカで人を殴りつける感触が好きなタイプと人を這いつくばらせて自分が全く関係ない高みで見ているのが好きなタイプとがいる。
総長は人の上に立つ人間なので彼氏のことがなければわざわざ自分で人を殴りつけたりしないのかもしれない。
能ある鷹として爪を隠したがる上に立つ人間は人に命令するだけで自分で動かないのが普通だ。
彼氏は言葉で簡単にオレを追い詰めて心を切り刻んでいく。
そのくせ、不思議と優しさを感じる。
性欲過多のサルと言いながら彼氏がオレを嫌っているように見えないからだろうか。
こんなオレでも構わないと言っているようにみえる。
「どうしてほしい?」
「……オレのこと、どう思って、なんで彼氏だって言ってんだ?」
一番初めに告白されたときに聞くべきだった。
裸で逃げ場のない状況でどう思っているのか聞いてそれが望みと違っていたら死ぬ。
精神的に死ぬ。
逆にそれはそれで気持ちいい気がしていて変態すぎて死ぬ。
チンコが完全に勃起した。
「いまさら、何? 俺が告白してアンタがOKしたじゃないか」
「罰ゲームとかじゃないのか」
彼氏は屈んでオレに視線を合わしてくれた。勃起チンコには触れない。優しさなのか見えていないのか。
オレの涙は快感や情けなさやよくわからない感情で流れていて顔を汚しているだろう。
呼吸が荒くなっていて、気持ちが落ち着くことが出来ない。
耳元で心臓の音や自分の息遣いが聞こえていてチンコから先走りが滴ってくる。
張りつめた空気に興奮しているオレはマゾであることよりも真面目な話ができないことを謝るべきかもしれない。
彼氏が理想的なご主人様だと思った瞬間にオレは思い出した。
そもそも彼氏はオレを好きで告白してきたわけじゃない。
彼氏とオレの接点はない。
あえて言うと彼氏の友達は知り合いの知り合いとして面識がある。
「からかってんだろ」
「はあ? なにそれ。今まで俺のこと彼氏だと思ってなかったのかよ」
冷たい視線に肌が粟立つ。
怒らせたことを謝りたいと思いながらオレのことを彼氏が好きでいてくれていたということを先に喜んでしまった。
顔に出ていたのか彼氏に髪の毛を持ったまま引きずられた。勃起したチンコが床をこすって気持ちいい。
口からよだれが出て廊下を汚してしまったが、彼氏がぞうきんがけするのかと思うと胸が温かくなる。
いろんな場所にぶつかりながら浴室に転がされる。
彼氏の力が強いというよりもオレが身体的に鍛えていたから彼氏の動きについていけた。
髪の毛はあまり抜けなかったし頭皮は元気だと思う。
そして、何をされるかと期待に股間を膨らませていると水をかけられた。
流水は冷たくてすぐに全身が震えてくる。
「禊っていえば滝だろ」
彼氏は本当にアレだ。
オレにいやがらせをしようとか痛めつけて泣いている姿が好きとかそういうことを思って動いていない。
彼氏の中に確固たるルールがある。
だからきっとオレがマゾであるとか、変態性欲を持て余しているとか、そういうのは問題じゃない。
「水責めしてやるから浴槽に栓して入れよ」
「しぬ」
「死なねえよ。死ぬ前にちゃんと引き上げてあっためてやる」
シャワーヘッドでコンコンっと頭を叩かれた。
「風呂ですぐに洗い流せるから何を撒き散らしてもいいからな」
「オレのことを嫌いにならないのか」
「アンタ、本当にバカだよな。少し変わったところを見たぐらいで冷める程度の愛ならいらないだろ。
好きならバカでも変態でも惚れたほうが負けってことで受け入れてやるよ」
その言葉は冷たい身体に甘くて熱くて心まで染み込んだ。
マゾ奴隷に必要なものとは間違いなく理解力と応用力と実現力のある彼氏、そういうことなんだろう。
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「マゾ奴隷に必要なものとは?」はこれで完結です。
お読みくださってありがとうございました!!
pixivで有償でリクエストをいただいたので続きがあります。
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