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彼氏:アンタ以上に大切じゃないから気にすんな2

焼き茄子を見て複雑な表情を浮かべたが、結局、俺の恋人はおとなしく焼き茄子を食べている。 自分の中に入れられていた茄子の置き物を思い出さないはずがないのに触れることなく「うまいな」と笑っている。 頭のネジがゆるめなのだろう。かわいい奴だ。 自分に恋人が出来たせいか人の恋愛に対して口出ししてくる三栗谷の勧めで、俺は告白した。 無事に恋人同士になったのだが、そこからの進みは鈍かった。 他人の気持ちを考えるのは不得意な分野なので、まずは情報収集がしたかった。 関係の維持に必要なのは対話だというのは両親を見ていれば分かるが、俺も相手も多弁ではない。 お互いのことを知るための会話は、お互いの距離を縮める会話にまでは至らなかった。 悪態や毒舌。そういうものは自分の一部になっていて、よくないと思っているので心に浮かんだ言葉を口に出さないことは多い。 今までは、余計なことはしゃべらない、反応しないということで他人からのイメージをコントロールしてきた。 だが、関わりたい、知りたいと思っている相手に対して黙っているわけにもいかない。 反射的に出てくる相手の発言の矛盾点を突こうとする言葉を飲み込んだり、誤魔化していると吃音症のようになってしまった。 クラスメイトとは普通に話せるので、本格的なものではない。 緊張と失言を避けるために恋人とだけ上手く話せなくなるという本末転倒。情けない。 何もかもが上手くいくはずがないと分かっていても、不甲斐ない姿を恋人に見せ続ける自分に落ち込むしかない。 格好つけたところで格好良くなるわけではないが、ビビっていた。 自分の中で処理しきれない失態を演じたときは大切にしていたクリスタルガラス製の細工をハンマーでかち割ることにした。 逆にコミュニケーションが円滑に進んだと思えたら新しい細工をひとつ購入する。 成功と失敗をカレンダーに印をつけるより目で見て分かるし、覚悟が決まる。 失敗するのは集中力や注意力が落ちているからだ。 恋人の前で心が浮つくのは仕方がないが、無駄な時間は存在しない。 恋人になったことは終わりではなく始まりだ。 いつ恋人の口から「合わないから別れよう」という言葉が出るか、気が気ではない。 確実に恋人を振り向かせて繋ぎ止める必要がある。 付き合い始めてから相手を好きになったり情が湧くのはよくある話。昔のお見合い結婚だって、そういうものだった。 恋人という関係を維持するのは今のままではいけない。 共通で知っていたゲームの話などをしながら、もっとプライベートな話題に持っていく取っ掛かりを探していた。 そんな中で俺はよくわからない不良たちに拉致された。 最初は三栗谷のせいかと思っていた。 理由は恋人だった。 「これも食べるか?」 「なんか、居酒屋メニュー?」 味たまごとたこわさを出したら不思議そうな顔を向けられた。 恋人のアレルギーは知らない。今のところ本人からの申告はない。 好き嫌いはあっても出されたら食べてしまうということは知っている。母親が夕飯の献立を決めやすいが、張り合いがないと愚痴られると言っていた。 「わさびは得意じゃないんだろ」 得意じゃないのに何で出したのかと恋人は視線で聞いてくるが、わざわざ言うまでもない。 総長というやつに犯された恋人へのお仕置き――では、もちろんない。 これは、恋人が「苦手なものが好き」な人種だからだ。 三栗谷との会話を考えるとアイスコーヒーは苦手らしいが、恋人は何度か俺の前でアイスコーヒーを飲んでいた。 俺の前では平然としていたが、俺が見えない角度で顔を盛大にゆがめていた。 近くに車があったのでサイドミラーで苦くてつらいという恋人の顔は見ていた。強がりたいらしいので泳がせていた。 恋人はアイスコーヒー以外でも無駄とも言える背伸びの仕方をする。 理由はやはり「苦手なものが好き」だからだ。そうとしか思えない。 怖くて嫌なのにホラー映画を見てしまう。 臭くて頭痛すらするのに匂いを嗅いでしまう。 怖いもの見たさとは違うが似ている感情に恋人は支配されている。 刺激的なものに対して何かを期待しているのか手を伸ばす。 苦手そうだと分かった上で、恋人にわさび寿司を食べさせたことがある。 あのとき、恋人は信じられないぐらいにいやらしい顔をしていた。 涙目になって「おいしいんだけど、量は食べられない」と息を弾ませていた。 あの段階で勃起した股間を見て見ぬふりをせずに蹴り飛ばしてやれば、今回の騒動は起こらなかったのだろうか。 それとも、愛と信頼が深いほど、お互いに傷が増えるだけなのか。 たこわさを食べながら目をギュッと閉じて口をすぼめる恋人の間抜け顔を見つめる。 そこまでわさびを利かせたつもりはないが、先入観で怖がってわさびの刺激に備えているんだろう。 今回の事と、似ているのかもしれない。 恋人はこんな日が来ることを予想していたようだ。 少なくとも焦っていたのはバレバレの演技だった。 俺が不良たちに絡まれたのは、総長というやつが人の恋人に横恋慕したからだ。 不良たちが俺の恋人を手に入れるために俺を人質に取ると話しているのを聞いた。 恋人は人からの好意に鈍感というより、期待しないようにしている。 先程、俺からの告白を罰ゲームからのものではないかと言ったのも本心というより、傷つかないためだ。 俺の口から「好きじゃない」と言われたら傷つくからこそ、最初から告白を素直に受け入れていなかった――そんなことを言い出す。 悪口も好意も本気にしなければ聞き流せる。 それと三栗谷というより、三栗谷と一緒にいる二楷堂が悪趣味なゲームを提案しそうなタイプに見えるのも言いわけに使える。 いつだったか、三栗谷の知り合いだか交際相手が恋人と話したというのも聞いた。 自分とはタイプの違う相手への告白を疑問に思うのは普通の事だ。 その際、俺の心情を「度胸試しだった」と説明したらしい。 当たって砕けろという気持ちで告白したので、度胸試しだったのは間違いない。 恋人が不貞腐れたように「からかってんだろ」と言ったことからすると「度胸試し」というのは気に入らず「好きだから告白をした」という答えが欲しかったのかもしれない。 俺の言葉ではないが恋人が俺の気持ちについて考えていたことは知っている。 放っておくことなく、ちゃんと話をしておくべきだった。 ただ、これは俺個人の問題だが、好きとか愛しているという言葉が自分の中で当てはまらず宙に浮いていた。 恋人のことを大切に思っていても、分かりやすく具体的なセリフが自分の中から出てこない。 この俺の振る舞いは恋人に不満を抱かせた。 今回の話は浮気でも二股でもなく、そういうやつだ。

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