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第4話 fragrance

「アリスさん、首…痕ついてる」 「あぁこれ?さっきのお客さんにガチで首絞められたんだー。愛してるかって聞かれて、もちろんって答えたらこれ」 「……あんたって人は」 初めて自ら触れてくれる健太君の手は、俺より少し冷たくて、思いのほか優しくて。ほんの少しだけ…顔が熱くなった。 「色恋ばっかりだから危険な目に合うんですよ。 …今回は良かったですけど、この先もっと酷い目に合うかも──」 「だーいじょうぶだって!それが店の金になるから、健太君だって美味しいご飯食べれるんじゃん?」 「そりゃそうだけど……」 首を撫でる健太君の手は、さっきの客みたいにゴツくなくて、でも俺のよりずっと大きい。 この手はどんな風に愛しい人を求め、どんな風に抱くんだろうって。 健太君はどんな人を好きになるんだろうって、考えては切なくなる。 …少なくとも、俺みたいに身体を売って稼いでるような奴じゃなく、それなりにお堅くて、それなりに美人で、それなりに一途ないい人を選ぶんだろうな。 健太君、結構真面目でいい子だし。 「とりあえず今日はもう上がってください。店長には俺から事情話しておくんで。あぁあと」 「ん?」 首を撫でた指先が少し長めの襟足を辿り、ゆっくりと離れたその時だ。 「香水、もう少し甘い匂いのほうがアリスさんには合ってるんじゃないですか?」 健太君の口から予想外の言葉が放たれる。 「ぅえ、ぇ…?…そ、かな。……今度見に行ってみる」 「ん。…じゃあまた。お疲れ様です」 二人きりの時間は、あっという間に終わってしまうもので。 …初めて健太君にそんな事、言われた。 これまで健太君との会話なんて、「お疲れさま」と、「くっつくな」と…あとは最近パンデミック関連の話くらいはするようになったけど、それだけだったから。 …香水かぁ。 お客さんに貰ったものだけど、別にその人も俺を自分好みにしたい~とか何とか言っておいて今は家で引きこもってる意気地なしだし。 特に俺が好きでつけてる匂いでもないし、いっか。 あ、もしかして健太君も… “俺を自分好みに──” いやっ、いや! ないないないまさか! 馬鹿か俺!何ちょっと期待してんの! …期待とか、したところで無駄だし。 「…甘い、匂いか。バニラとフルーツ系、健太君はどっちがいいかな」 そんな事を誰にも聞こえない小さな声で呟いて、今夜も仕事を終えた。

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