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第10話 禁忌と期待

「…さっき見るのも辛いって……健太君、そんなに悪いの?」 「様子見を頼まれて定期的に顔出してるんですけどね…最近はまともに食事もとれなくなってきて、今じゃ…動くのも……っ」 「……そ、なんだ…」 後部座席に座るアリスさんが、なんだかとても小さく見えた。 同じ男でも、やはりΩは自分の腕でも簡単に包み込めるほどか細く、儚い。 隠してきた健太の秘密を誰かに話すのはすごく勇気が要って、だけど話してしまえば、心なしか少し気持ちは楽になった。 本当はあの日、アリスさんを送り届けた後健太から連絡があった。 “俺がαってこと、アリスさんだけには言わないでくれ” そう、釘を刺された。 別に誰にも言ってないし言わないよ、なんて当たり前のように返したが、その後アリスさんが客にされたことを聞かされて納得した。 確かにそんな思いをした直後に彼を送り届けた黒服までもがそうなり得ないαだと知れば、それこそ気を病んじゃうかもしれないもんな。 「健太君の運転……うまいから好きなんだよ」 「…それは僕をディスってるんですか」 「そんなことないって~。……はは。でもね、俺健太君の運転だと安心できるんだ」 「……あいつにも、聞かせてやりたいです」 「──それにね、健太君ジャズ好きなんだ。 最近はずっとラジオだったけど、その前はジャズばっかり流しててさぁ…っ、れも…好きになっちゃったぁ…」 「…わかります。あいつハマるとそればっかりになるから」 「他にもね、健太君は──」 アリスさんは家に向かうまでの間、ずっと空を見上げて健太の事ばかりを話していた。 アリスさんにとって黒服との関わりなんてほんのひと時で、そんな一瞬の事よりも客と過ごす時間の方がうんと長いだろうに。 どうしてそんな、健太のことばかりを。 まるで──。 「アリスさん、健太のこと大好きですよね」 「……ふぇ…?」 ミラー越しにもわかる、アリスさんのボンと赤く染まった顔。 …え、おいまじかよ。 エースが黒服に恋とか…。 それも当人は既にもうあんな…助かりようのないところまで…。 …。 …?! 「……まって、アリスさん」 その瞬間、一段と大きく鼓動した心臓が、はち切れるほど胸を打ち付けた。

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