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第12話 遅すぎた自覚

203号室。 山内君に言われた扉の前で立ち止まる。 流石にいきなりカギを差し込んで侵入するのは気が引けて、形だけでもとベルを鳴らした。 …声が返ってくることも、扉を開けてくれることもなかったけれど。 震える手ではなかなか鍵穴にそれを差し込めず、両手を使って何とかカギを回した。 「…健太君?いるんだよね……入るよ」 何しに来たんですか、とか なんであんたがいるんですか、とか。 そんな風に、いつもみたいな面倒臭そうな顔をして言ってもらえるって、まだそんなことを期待していた。 健太君なら大丈夫って、まだ思っていた。 真っ暗な部屋。 身体をぶつけないよう、慎重に廊下を進んで、辿り着いた寝室の前。 冷静になって考えろよ。今は真夜中だ。 健太君は眠っているだけかもしれない。 俺の声に反応しなかったのも、電気がついていないのも、きっと疲れて眠っているだけだよ、そうだ。 落ち着け 震えるな、俺。 「開けるよ」 扉を開けて、すぐそばに見えたスイッチに触れた。 途端に白い光が寝室を照らす。 健太君は ベッドの横で倒れていた。 息をすることすら忘れて 雷に打たれたかのように 衝撃が走り、その場から動けない。 「っ、健太君……」 やっとの思いで絞り出した声は、冗談みたいに震えていた。 俺は慌てて健太君の元に走り寄った。近くで見れば、数週間前までの彼との変化に言葉を失う。 頬はこけて、痩せ細った身体。 骨の形がはっきりとわかるほど、大好きだった大きな手は、弱々しくなっていた。 口から溢れた血はまだ新しいのか、赤黒く健太君の首元までもを染めていて。 「…健太、くん…、ねえ起きてよ。健太君……」 艶のなくなった黒い髪に触れてみても、健太君はほんの少しも動かない。 「けん、たく……っ。やだ、ねえ健太君起きてって!健太君!!」 どんなに呼んでも揺さぶっても、健太君は反応を示さないどころか触れた手は驚く程冷たくて。 堪えきれず、遂に涙がこぼれた。 これまで我慢してきたそれは、一度溢れ出したら止まらない。 俺はこんなに、君のことが好きだったんだね。 君がこんな姿になった今、ようやく自覚した。

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