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#20
太陽が天高く登った頃、スマホのアラームで目が覚めた。
アリスさんは隣でいまだにぐっすりだ。
今日は休みなんだろうか。
もっと一緒にいたかったな。
…風呂、入ろう。
大切な恋人が家にいるというのに、
俺は今日も別の人間に抱かれる支度をする…とか、
もう惨めすぎて笑うことすらできないな。
アリスさんの香水を、今日も少しだけもらった。
部屋に匂いが残らない程度の、
ほんの1プッシュ。
これだけで、アリスさんが近くにいてくれるような気がして
1日を乗り越えられる気がする。
“腹減ってたら昨日の残りあるから適当に食べてください
仕事行ってきます”
そう、書き置きを残して家を出た。
今日を終えて家に帰れば
アリスさんはもういないだろうけど、
ぎりぎりまでアリスさんの顔を見れたのはすごく心が救われた。
車のエンジンをかけ、気持ち程度に音楽を流す。
今までは気分が上がっていた俺の好きな曲達は
家と派遣場所を行き来する間も聴き続けていたお陰で嫌いになった。
この曲が終わって、次の曲が終わる頃には目的地に到着しているんだろう。
好きだったはずのものも、全て嫌いになる。
反吐が出そうだ。
今日1本目の仕事のために向かった場所は、
うちの店からも近く、常連客御用達のなかなか綺麗な外装のホテルだった。
俺自身、黒服時代に何度も送迎の為立ち寄ったことがある。
と、見慣れた車が一台俺の後をついて駐車場に入ってくるのがわかった。
恐らく同じ店のキャストも偶然このホテルに呼ばれたのだろう。
運転している男は…
なんだかとても、見覚えがあって──。
「…や、まうち?」
俺が気づいたのと同様に、
山内も俺の車に気がついたようで
バックミラー越しに奴の顔色が変わったのが見えた。
…嘘だろ、最悪だ…。
念のため時間を確認してみたが、予約時間はもうギリギリ。
いつもならもう少し余裕を持って移動するのだが、
今日は時間いっぱいまでアリスさんの顔を見ていたくて、この有様だ。
くっそ。
せめてあいつに捕まることなく建物の中に入れたらいいのだが。
慌てて車を降りて駆け足で入り口に向かう。
が、そう上手く行くはずもなく、
派遣されたキャストよりも先に俺の元へ走り寄ってくるのは勿論──…。
「おい!お前…やっぱり健太だよな?何してんだよ…プラベ?え、でもそしたらアリスさんは…?」
あーもうまじで、ついてない。
「無視すんなよおい!」
「……んだよ」
「お前…急に連絡取れなくなったと思ったらこんな所きて…、
何考えてんだ。アリスさんにしてもらったこと忘れたのか?!」
「るせーな!俺だって来たくねえよこんな所!
でも…っ、俺がやんなきゃアリスさんが何されるか…っ」
山内にこんなこと、言いたくない。
山内に怒りたくなんてなかった。
こいつは俺のことを心配して、
アリスさんのことを心配してくれているとわかっているから。
でも、俺にはもう、こうすることしか出来ない。
1人でなんとかするしか、もう方法はないんだ。
「お前、本当はあの日店長と何かあったんじゃないのか…」
「お前が心配するようなことじゃない。
とにかく…これ以上俺に関わるな。
今日俺と会ったこと、頼むから誰にもいうなよ」
それだけ言い捨てると、
俺は逃げるようにホテルの中に入った。
山内は追ってこない。
これでいい。
いいんだ…。
助けてくれなんて、
俺には言えないんだ。
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