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#21

インターホンのなる音で目が覚めた。 横で眠っていたはずの健太君はいなくて、 代わりに小さなメモが一枚。 先に仕事行っちゃったのか。 起こしてくれればよかったのに、おはようも言わせてくれなかった…。 ~~♪ 再び鳴るインターホン。 こんな時間に訪ねてくるとか、どんな人? 様子ちょっとおかしかったし……やっぱり浮気?! とか少し疑ってしまって、 玄関まで、覗き穴の確認に急いだ。 でも、訪ねてきたのは浮気相手でもセールスっぽい営業のお兄さんでもなんでもなく、俺もよく知っている人物だった。 そう。 健太君の家であるにもかかわらず、 迷わず鍵を開けてしまえるような人物。 「山内君?!どうしたの?」 「あ……っ、アリスさん…いてくれてよかった」 首に伝うほど汗をかいて、今にも泣きそうな山内君に とりあえずただ事ではないことだけは察する。 「健太君なら仕事行っていないけど…」 「用があるのはあいつじゃなくてアリスさんです! すいません、上がってもいいですか…?」 健太君の家だけど…、まあ、山内君ならいっかな。 山内君なら、健太君も許してくれる…よね。 「上がって上がって」 「すいません…」 小さなテーブルに置かれたグラスは、 すぐに汗を滲ませた。 健太君と俺のしか置かれていないこの家で、 俺のグラスを山内君の前においたのは… いくら山内君とは言えど、 健太君と同じものに口をつけて欲しくないという俺のしょうもない独占欲で。 けれど、このあとそんな俺のちっぽけな感情なんてどうでもいいくらいの 衝撃の出来事を聞かされることになる。 「にしても久しぶりだよねー、山内君。元気にしてた?」 「ええ、まあ……」 山内君の表情は、 ずっと泣きそうなままだ。 わかりやすいの、変わってないんだなあ。 「アリスさん、あの…。健太は最近調子どうですか…?」 俺には山内君の言っている事がよくわからなかった。 だってそうだろう。 山内君は、今も健太君と同じ職場で働いているのに。 「いつも通りお仕事行ってるんじゃないの?今日だって…」 「健太は………もう、黒服やってないですよ。 もう半年くらい、ずっと連絡も無視されたままです」 「……は?」 「もう一度聞きます。健太…調子、どうですか? 最近何か、変なこととかありませんか?」 「……別にそんなこと、は…」 健太君の様子がおかしいと思ったのは、つい昨日のことだ。 俺がくると思わなかったと言われればそれまでだけど、 いつもお風呂の時間はもっと早いし、 αのキャストが入ったって話も、 本当に送迎してたらキャストの名前くらいは流石に把握しているだろう。 「……あるんですね、心当たり」 「心当たりってほどじゃないけど…、まあ…」 あの日の山内君とは、今度は逆の立場になったようで 一つ、また一つと俺の感じた違和感を山内君に話して行くことは、妙に緊張して苦しくて 互いの話を繋げて導き出した憶測の答えに、 俺は次の言葉も思いつかなくなっていた。 “アリスさんが居てくれるなら、大丈夫ですよ俺は” もし、俺の考えたことが本当だとしたら 大馬鹿だよ、健太君。

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