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#22

山内君も、健太君が今どんな生活をしているのかは 知らないようだった。 教えてくれたのは半年前、俺と番になった翌日のこと。 事情を知った店長は健太君に怒りをあらわにし、 間に入ろうとした山内君を追い出したらしい。 そこから先は締め出された山内君が知るはずもなく、 後日店を辞めることになったと健太君から連絡が来たきり、 その後のことは何もわからないまま、と。 「僕、さっきホテルにキャストの子送るとき1人で入ってく健太見つけて…。 ここで会った事誰にもいうなとか意味わからないこと言ってきて…」 浮気とか、疑って落ち込んでたのが馬鹿みたいだ。 いっそそうであったなら、逆にありがたかったかもしれない。 「……山内君、αのキャストが入ったって話知ってる?」 「…?何ですかそれ、僕そんな子知らないですよ」 「もしさ…、そのキャストが自分で派遣場所に向かってるんだとしたら…? 黒服の中に知り合いがいるから、知られたくなくてそういう手段をとっているんだと、したらさ…っ」 自分で言っておいて、声が震える。 どうして気がつかなかったんだろう。 どうして気付いてあげられなかったんだろう。 健太君が1人、犠牲になっているという現実に。 山内君から聞いた話と、俺の違和感を繋ぎ合わせて出た結論は とてもじゃないけど簡単には信じられない。 そもそも俺は、店長にずっと言っていた。 健太君が復帰するよりも前から、大切な人ができたって。 健太君が復帰したその日を、俺の最後にして欲しいって。 自過剰なわけではないけれど、店長が売り上げ店内トップの俺を 一切止めることなく了承してくれたのは少しおかしいと思ってはいた。 でも店長は今までずっと俺に異常なほど優しくしてくれていたから、 応援してくれているんだって勝手に思っていた。 こんな形で、健太君に迷惑がかかるなんて考えたこともなかった。 「……それ、本当だとしたら 健太は一体いつから…」 「どんな事情があるのか知らないけど 健太君に吐かせるよ、俺」 どうして1人で抱え込んでいるの。 俺は健太君の番なのに 山内君は健太君が多分一番信頼してる友達なのに。 そんな俺たちに何一つ助けを求めることもしなくてさ。

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