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#24
初めての健太君からの拒絶。
「…キス、させてよ」
「今は嫌です」
「なんで…」
「汚いから!」
「…っ」
健太君から発せられた言葉は、
今までに言われたどんな言葉よりも鋭く俺の体に突き刺さった。
Ωという性のお陰で、淫乱だの、変態だの
幼い頃から言われ慣れた言葉は沢山あった。
だからといって、俺がΩであることが恥ずかしいなんて思った事は一度もなくて、
むしろそれを武器にしてこれまでだってやってきた。
健太君との出会いの場だってそう。
何人もとキスをして、何人もとセックスをして、
そうやって生きて行くのは俺にとって普通で、俺を虐げてきた人たちよりもよっぽど稼ぎだってあるのを生き甲斐として誇りに思ってきた。
でも、健太君にとってそれは、汚い事……だったのかな。
健太君の言いたい事はもちろんわかる。
好き好んでキャスト側に回ったわけじゃないのなら尚更。
だってαだから。
そんな、誰彼構わず人を誘って、
そうしなければ自分をコントロールできない性を持ってしまった俺とは何もかもが違うから。
わかってる、けど。
「健太君は、俺の事汚いって思うんだね」
「そういう意味で言ったんじゃ──」
「…満足するまで洗っておいで。
俺、リビングで待ってるね」
ごめんね、健太君。
健太君だってずっとずっと辛い思いしてきたはずなのに。
俺、ちょっと優しい言葉かけてあげるだけの余裕今はないや。
健太君が汚いと思うのなら、
綺麗になるまで身体を洗えばいい。
健太君が汚いと思わなくなるまで、健太君が落ち着くまで、
傷が増えても、もっと赤くなっても、俺は何も言わないから。
健太君に触れて、少し濡れた俺の服。
これを着替えてしまうのは、
健太君のことを汚いと認めるような気がした。
それはすなわち、俺自身の生き方も汚いと言っているような気がして。
廊下に水滴を落としながら、リビングに向かった。
テーブルの前で体育座りをして、
再び聞こえ出したシャワーの音はうるさいくらいに俺の耳の奥まで響く。
ぽた、ぽたとテーブルの上に落とされた滴は、
風呂で濡れたものなのか、俺の涙なのかはよくわからない。
次第に面積を大きくして行く水たまりを、
ぼやける視界で、ただ、じっと見つめていた。
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