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#25

アリスさんを、傷付けてしまった。 アリスさんを汚いだとか、 俺は一度も思った事はないのに。 自分に余裕がなさすぎて 勘違いさせてしまうようなことを…。 本当に、最低だ。 俺は。 他人に触れた手で、他人に触れられた体で、 他人とキスをした唇で、アリスさんと触れ合うのは… 俺だけじゃなく、アリスさんまでもを汚してしまうような気がして無理だった。 アリスさんは、こんな俺を心配してくれたのに。 アリスさんは、俺と生きて行くために、新しい道を見つけて頑張っているのに。 アリスさんは…輝いているのに。 汚いのは俺なんだよ。 アリスさんじゃなくて、俺なんだ。 「…いっ……」 日毎に増えた傷が滲みる。 既に真っ赤な肌を、まだ足りないと擦り続ける。 勘違いとはいえ彼を傷つけるようなことを言って、 追いかけることもできなくてアリスさんを待たせているのに、 まだ俺はここから出られない。 ひどい話だ。 こんなにもアリスさんを好きなのに。 身体を流すだけのはずなのに、 俺がリビングに戻るまで1時間近くが経っていた。 ソファも無い俺の家で、いつもならアリスさんはベッドに座ってテレビを見たり、 横になってスマホをいじっているのに 今日はテーブルの前でちょこんとうずくまっているだけで。 「…待たせてごめん、アリスさん」 「………大丈夫」 ゆっくりと頭を持ち上げたアリスさんの瞳には、 涙の膜が張っていた。 当たり前だよな。 そんな…目真っ赤にさせて、 大丈夫なわけないのに。 アリスさんの笑顔を守りたくて、 アリスさんの幸せを守りたくてここまでやってきたっていうのに、 それを壊しているのは俺じゃないか。 「…変なこと言ってすいません。でもあれはアリスさんの事言ってたんじゃなくて──」 「もういいって。俺もちょっと…冷静じゃなかったなって反省してるし。 本当俺は大丈夫だよ!」 無理やりに作ったアリスさんの笑みが辛い。 俺よりずっと小さな体で、痛みを隠して。 泣かせた張本人の俺を責める事もなく無理して、 笑って。 「大丈夫じゃないだろ…」 「大丈夫じゃないのは健太君だろ?!」 「──っ」 おもむろにスウェットを捲し上げられ、 ついさっきまで痛む程強く擦り続けた火照りとは違う赤い腹が曝け出される。 いつからか、意図的に明るい部屋では服を脱がなくなった。 そういう雰囲気になった時は必ず後ろから…か、 姿なんて見えないくらい真っ暗にした上で事に及んだ。 アリスさんに心配をかけないように。 アリスさんに気を遣わせないように。 なのに俺は…。 「健太君、俺に隠してることあるよね」 「…」

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