人から聞いた話を繋ぎ合わせるのと、健太君本人から聞くのとじゃ全然違って聞こえる。 健太君が1人で抱えていた事の大きさを知れば、 無意識に健太くんの手を握っていた。 「…引いた？」 健太君の泣きそうな横顔に そっと口付ける。 全部自分が悪い そう思ってしまうのは、責任感が強くて真面目な彼だからこそ。 真面目すぎるが故に、誰かに迷惑をかけることを嫌って、この半年間耐え抜いてきたんだと思うと… めちゃくちゃ格好良くて また、惚れ直した。 …とか言ったら、健太君は何て言うだろう。 まあ、今はそんな事を言うよりも 先に、しなければならない事がある。 「今からお店まで連れて行ってくれる？ 健太君がダメって言うなら山内君呼ぶ」 「へ？何でアリスさんが店に…」 「店長と話したい」 健太君の目の色が変わった。 「…ダメだ、あの人は多分…アリスさんの事呼び戻そうとする。あんたが思ってる以上にあの人は…執着してると思うよ」 「それでも行くんだよ」 俺にしか出来ない事。 健太君を苦しめるなんて許さない。 いくらお世話になった人でも、それは同じだ。 「俺の大切な恋人に、酷い事したんだもん」 俺の勘がもっと鋭ければ 早くに気づいたかもしれなかった。 健太君だけのせいじゃない。 俺も、軽率だった。 番になった事を間違ってるなんて思わない。 だからそう思っている人には 首を縦に振ってもらわなきゃね。 「……何かあるといけないんで 俺もついてくし、山内にも……連絡入れますからね」 「っふふ、ありがと。 そんな警戒しなくてもいいのに…ほんと心配性」 さっき鞄を落とした時、どうやら瓶が割れたみたいでとてもじゃないけど使い物にならなそうなそれは放置して、 手ぶらのまま、健太君と一緒に家を出た。 久しぶりに助手席から見る懐かしい景色。 健太君は少しためらった後 小さな音でジャズを流す。 「あんなに嫌だったはずなのにさ。 …なんでだろ。アリスさんが横に乗ってると、この道走るのも少し楽」 「そう？俺は懐かしいなって …ちょっとテンション上がってる」 隣で呆れたみたいにため息をつく健太君は 以前と変わらない、俺の世界で一番格好良い番だ。 弱い所を誰にも見せたがらない 強くて優しくて素敵な、俺だけのα。