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#36

ただでさえΩの匂いが充満する中で 顔に散らばる雄の香りが、猛烈なスピードで俺の理性を崩しにかかる。 「あ、はっ…全部俺の、だね…っ」 満足そうな顔をして、俺の首筋に伝う白濁を指で拭う素振りに ブチっと 硬く結んでいた紐がちぎれる音がした。 傷つけないように 少しでも痛みを与えないようにと ゆっくり侵入させていたそこがドクンと大きく脈を打つ。 腰を押し付けるように一気に奥まで突き上げると 声にならない叫びがヒュっと耳元で聞こえた。 「ギチギチなんだけど…なあ、もう少し緩めてよ。…全然動けない…っ」 ぐちゅぐちゅに濡れた内壁は 俺のをキツく咥えこんで ほんの少しの隙間も無くピッタリと密着する。 「あ…健太君の…、おっき、くてッ そ、な…余裕、ないっ…」 「は…っ」 煽んなよ それ以上。 孕ませたくなる このまま、閉じ込めて 俺しか見えない、俺しか知らない 俺だけのあんたにしたくなる。 行き止まりの奥を構わず突き続け、アリスさんの苦しそうな呻き声に鳥肌が立つ。 ゾクゾクと湧き上がるこれは 恋人としての単なる独占欲なのか それとも、αの持つΩへの支配欲なのか。 金色の髪をたくし上げ、痛々しい歯型に舌を這わせた。 俺の所有物である証 俺のΩである証。 「あんたは俺のだよ。……玲」 「──っ!」 名前を呼びたくなかったわけじゃない。 呼べなかったわけでもない。 ただ、俺みたいな人間が 俺よりもずっと輝いているこの人のことを アリス…以外の名で呼んでも良いのかと ずっと心につっかえるものがあった。 けれど “レイ”と、さも当たり前のように呼ぶ店長を見て 心臓をえぐられるような 傷口を掻きむしられるような痛みと、やり場のない怒りを覚えて 率直に、気分が悪かったから。 「…健太君……今、名前…っ」 「俺以外に玲って呼ばせんの辞めろ」 「はあ゛っう゛……ん、ぁ…」 自らが噛んだ頸のすぐ隣に もう一度歯を立てた。 ミチミチと細胞一つ一つが千切れ、破壊されていく音を聞き 鉄の渋みを味わいながら 容赦なく腰を打ち付ける。 離しては、喰らい 離しては、吸い上げる。 頸どころでは無い 首、肩、胸までを赤く染め上げ 無数の歯型と鬱血痕を眺めて “玲”の口元にポタリと唾液が落ちた。 じゅる…とこれみよがしに音を立ててそれを口内に流し込む玲の姿は どこまでも妖艶で 厭らしくて 可憐で 俺の欲を駆り立てて 「もう…終わり?もっと、激しくっ…シて? 俺の声…枯れる、までっ」 真っ赤な顔して俺を捲し立てる玲は 世界の何とも比べ物にならないほど美しい。

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