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#37

挑発に乗るつもりはないが、俺が落ち着くまではせいぜい付き合ってもらおうと思う。 内壁をえぐるたびに漏れる玲の甘い嬌声がダイレクトに脳に響き渡る。 張り詰めたそれが限界に近づくのと合わせて、 一度は熱を放った玲のそれも硬さを取り戻した。 「健太君…っ、キス…」 パン、パンと肌を打ち付け合う音に紛れる事のない玲の俺を求める声が 耳を犯す。 「…ん、」 膝の裏を抱えていた手を離し、 両手で玲の耳を覆う。 始めは触れるだけだった唇の間から 熱い舌を捻じ込まれて深いものに形を変えて 「はん…む、ぅ……っン……」 玲の、俺を貪る音と 口内で交わる舌の水音のせいで 頭がクラクラした。 「…そんなに、キス好きなの…?」 「…好きだよ……健太君がくれるキスは、大好き」 「…っ、はぁ」 勘弁してくれ、本当に。 この人…天然なのか、計算なのかマジでわからない。 まあどちらに転んだところで 愛おしさは募るばかりで、逃すつもりは微塵もないのだが。 「たまんな…っ」 「ふあ゛ッッ!」 ガツガツと動かす腰の速度を早めて 余裕なんてほんのかけらも残っていない必死さを丸出しにした、 恥ずかしいほどに下手くそな抱き方で 痛いのか、苦しいのか 眉間にシワを寄せて狂ったように鳴く玲を何度も、何度も強く揺さぶる。 “孕ませる” “喰い尽くして、もっと奥深くまで” “身体の芯の、骨の髄まで 俺の色に染めさせる” 頭の奥底に潜んでいた猛獣が、 ここぞとばかりに叫び出す。 番にあてられたαの本能を塞ぎ込むのは もう、限界だった。 「も…、出る…っ」 俺の口から溢れたそんな呟きに 玲はだいぶ解れたそこにキュッと力を込める。 突然締まったそれに我慢なんて効くわけもなく 「んっ、────ッ」 一番奥の、深い所で ギリギリまで溜まった熱を 全て、吐き出した。 目がチカチカして ぼーっとする。 優しくて甘い匂いに包まれて ようやく、落ち着きを取り戻した所で 急激に頭は冷水をぶっかけられたみたいに冷え切った。 …俺、今何してた? 目の前にある汗ばむ身体と この、慣れ親しんだ香り そして、俺のものではない浅い呼吸の音は…。 「ぁ、アリスさん俺…っ」 中に、出した…? しかもガッツリ発情期真っ只中のこの人に 今だって、奥までずっぽり…入って……。 もう遅いとわかっていながらも、 慌てて引き抜くとアリスさんの高い声が一瞬頭をぐらっとさせた。 「…折角、名前で呼んでくれたのに また戻っちゃうの?…健太君のばか」 手の甲で、口から溢れた唾液を拭う 照れたように笑うアリスさんと目が合う。 そうか、俺は αの性に呑まれて、この人に… 「…す、ません。怪我…してませんか。 ア……や、玲…さん……」 「うーん、まぁ正直言うと怪我だらけ?」 コテンと傾げられた首元には 真新しい歯型が数え切れないほど付けられており、 腕や、腹部にまで広がる赤い痕は恐らくキスマークの類。 頭を抱える俺の下でケラケラと笑うアリスさん…じゃ、なくて玲さんが とりあえず、怒ってはいないみたいで安心した。 ──のも束の間で 「ねーぇ?お互いにさ、ちゃんと落ち着いたんだから …シラフでもっかい♡」 「…マジすか」 ネコ専門のウリ専で不動の一位を貫いてきたこの人の本性を、知った気がした。

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