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#39
「えええやっちゃったよ〜…昨日のうちに洗濯まわさせて貰えばよかったぁ…」
玲さんもシャワーを浴び終え、リビングで温かいコーヒーを啜りながら嘆き続ける声に苦笑する。
「脱水かけたら着れるかなあ…」
「絶対生臭くなりますよ。 」
「そうだよねえ〜…。1着しか貰ってないし本当どうしよう…はぁ」
がくんと項垂れる玲さんに、正直そんな事はどうでもいいんじゃないかって事を伝えてやりたい。
それよりも、大変な事態が起きている。
「まあ制服は予備の貸してくれるんじゃないですか?」
「うん…そうだよね、ちゃんと謝ろう…」
元々私服はVネックや襟が広めに作られたものを好んで着る玲さんにとって
番がいることをあまり周りに言っていない玲さんにとって
今の、自分の有様の方が
よっぽど重要ではないだろうか。
…俺のせいである事は重々承知しているが、これは。
「…ファンデーションとか持ってないんですか」
「へっ?なんで?」
…やっぱり気付いてなかったかよ。
俺は玲さんの首回りがよく見えるよう、
鏡を取り出し彼に向けた。
「…結構悲惨なんですよね」
「だから何………ぁ、」
首の後ろ側だけなら、まだなんとか髪の毛で隠せたかも知れないものを
前も、横も、鎖骨の辺りまでぎっしりと付けられた痣はどう頑張っても隠しようがない。
あいにく俺も玲さんもタートルネックなんて持ち合わせていないのだから。
みるみる顔が真っ赤に染まり、プルプルと震え出して
涙目でこちらを睨む玲さんに、ヤバいと思った時にはもう遅かった。
「健太君のどすけべー!!」
「い゛ってぇ!」
ごつんっと頭に拳が降って
視界に小さな星が散らばる。
いくらΩとはいえ、大人の男にある程度の力がこもったゲンコツを食らえば痛いに決まっているわけで
俺は凄まじい勢いで洗面台に走っていく玲さんをからかうことも出来ずに
暫くの間頭を抱えてしゃがみ込んでいた。
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