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#40

慌てて近くのコンビニに寄って、 適当なファンデーションを購入した。 肌の色と多少違ってもそんな事はどうでもいい。 いつか番の存在を話そうとは思っていたけど こんな独占欲丸出しの高校生みたいな首元で客前に出るのは…社会人としてアウトだよ! 思いの外家を出る時間が遅れてしまい、 俺を戸惑わせる原因を作った健太君に見せまで車で送らせた。 その間、必死に首にファンデを塗りまくっていた俺を見て 健太君はおかしそうに声まで出して笑ってきて。 めちゃくちゃ困るし とんでもない事をしてくれた健太君に怒りは覚えるけれど それ以上に、楽しそうにしている健太君を見られるのが嬉しくて俺まで一緒に笑えてきた。 「…今日終わるの何時?迎えにきますよ」 俺の職場は大型ショッピングモールの一角にある為 まだオープン前で駐車場は閉まっている。 すぐ隣の喫茶店に車を止めた健太君が ふわりと微笑み、俺の頭に手をおいた。 …ああもう。ほんと、格好良い。 朝から健太君の車に乗って、運転している姿を見られる日がくるなんて。 「…早くて15時か、遅くても17時には終われるはず!」 「わかった。立体駐車場の方が近かったっけ?」 「うん…でも混んでるだろうし、場所いってくれれば俺行くし大丈夫だよ」 なんでもないやりとり。 でも、出会ってから今までたったの一度も交わした事のないやりとりだった。 顔がだらしなく緩んでしまうのは、仕方のない事だろう。 「じゃあ頑張ってきてくださいね。 近いうちに山内連れて顔出します」 「…!うんっ。いつでも待ってるね!」 そう言って、車を降りた。 走っていく健太君の車が見えなくなるまで手を振って 駆け足でお店に向かう。 怒られるのは嫌だけど、頑張ったら健太君が迎えにきてくれる、と そう思えば怖いものはなかった。 眩しい太陽の光も それから髪をひらひらと舞わせる暖かな風も その全てが気持ちよく思える。

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