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予期せぬ出来事
どうしたらいいだろうか。
病院から自宅アパートまでは近かった。歩けないほどの距離ではない。
夜の7時だというのにまだ明るく、蒸し暑さはぬぐい切れない。
とぼとぼと歩きながら時折腹をさする。
Ωの男に子どもがいないわけじゃない。男性の母親だって世の中にはたくさんいる。
一人で産んで、育てることも不可能じゃない。
Ω専門の産科だけあって、出産や産後のサポートについても詳しく説明してくれた。公的支援についても資料をくれた。
Ωの場合産んだ子どもはΩかαのどちらかしかない。
手に持ったカバンがやけに重く感じる。額に汗が流れて地面に落ちていく。
医者は言っていた、「パートナーと相談して今後を決めてください」と。
パートナーなんていないし、相手も『アキ』としか分からない。
あの日が夢や幻想でないことは確かだし、相手がアキでしかないことは分かっている。
もちろん同意でしたことだし、発情期でも無かったから妊娠なんてしないと思っていた。
百パーセントなんてことは無かったけど。
だけど、こんなことになるとは思ってもいなかったし、望んでもいなかった。
互いに惹かれあってあの日僕たちはセックスをした。
それは間違いない。
初めてのことだったけど、アキを望んでアキに求めて、愛された結果だ。
アキにもう一度会いたい。
アキに会って、どうすればいいか聞きたい。
話を聞いてほしい。あの時のように頭を撫でてほしい。
ままごとのような結婚式をしたアキ。僕に永遠の愛を誓ってくれたアキ。
この子はアキに似るだろうか。
アキと同じαだったらいいな。
アキはいなくても子どもはできた。
あの一夜だけのことだけど、僕に永遠を誓ってくれた。
どこかで会えるかもしれないとあれから何度も思ったし、ホテルにも行った。
あの甘い香りも見つけることはできなかった。
僕を求めてくれたアキの分身がここにいる。
「どうしようなんて……思ってないよ」
俯いたまま腹を撫でた。
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