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望んだ愛

「え?」  美容師をしている従妹の葉山すずをアパートに呼び出して、誰にも言わないでほしいと切望して妊娠を報告した。2つ上の姉のように慕っていた従妹は動揺を隠しきれない様子で、どういうことかと説明を求めた。 「それで、申し訳ないんだけど、保証人になってほしいんだ」  番も家族もいない僕が出産するには保証人が必要だった。公的援助を受けるのもそうだ。 「Ωに厳しい社会なのは変わらないわね」 「ごめんね。すず」  保証人の欄にすずは快くサインと印鑑を押してくれた。 「今後はどうするの? 仕事も続けられないでしょ?」 「出産は出産一時金とか、ひとり親の援助金が受けられるし、これまでの貯金も少しはあるからなんとかなると思う」  仕事の休みを利用して何度も役場に行った。必要な書類を集めても最終的には『保証人』が必要なのだ。 「その、アキってαに心当たりはないの?」 「……ない」  首を横に振る。 「仕方ないわね。困ったことがあったらいつでも連絡してね。病院は……ここね」  すずは書類と一緒に置いてあった資料をぱらぱらとめくって、「予定日は?」と聞いた。 「Ωの妊娠って普通の妊娠と違って早く産ませるみたいで、8か月で出産なんだって」 「8か月? そんなに早くて大丈夫なの?」 「おなかの子が大きくなりすぎると母体が危ないんだって。産まれてくる子どもは保育器でしばらく様子をみるって。今4か月後半。年末かな」  何度か行った役場や産科で説明を受けたり、資料をもらい、自分でも本を読んで勉強した。 「落ち着いているわね」 「だって、僕しかいないからね」  この子には僕しかいないし、僕にもこの子しかいない、僕には僕しかいない。  すずに保証人を頼んだけど、頼ることはできない。 「それにね。この子αだって」 「αっ。え? わかるの?」 「うん。いろいろ分かっているよ。血液検査や抗体検査も受けたから」  書類の中から診察の結果の紙を取り出してすずに見せた。 「αってだけでも助かったよ。僕にもしものことがあってもこの子の身は保障されるから」  僕にもしものことがあってこの子が一人になってもαなら引き取り手はいくらでもある。

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