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望んだ愛

だからΩでなくてよかった。 「友紀。もしもなんて言わないでよ。出産には私が立ち会うからね」  すずはガッツポーズを作って笑った。 「すず。ありがとう。だけど、いいよ。すずにも仕事があるし、もしおじさんやおばさんが知ったらなんて言うか……」  お世話になったおじさんだけど、Ωには嫌悪がある。僕が妊娠したなんて知ったら激昂するだろう。下ろせって言うだろうことは容易に想像できる。 「おじさんたち子どもがいなかったから僕を引き取ってはくれたし、大学まで面倒は見てくれたけど、Ωには理解がなかったからね」  抑制剤を多めに飲まされて具合が悪くなったり、監禁まがいに閉じ込められたこともあった。僕を大事には思ってくれたけど、僕には窮屈でしかなかった。  Ω性を押さえつけることよりも理解を示してほしかった。  母は僕を捨てた。  僕の周りには僕と向き合ってくれる人間はいなかった。社会同様にΩが下で、Ωが悪いという偏見しかなかった。 「仕事はいつまで続けるの?」 「今月中には辞める。つわりも酷くないけど、そろそろスーツがきつくなってきたから」  少しずつ身体の変化を感じるようになってきた。周りには気が付かれないようには気を付けているけど、お腹が出てきたら気が付かれる。  今の会社は母方の親戚のΩのパートナーのαから紹介された会社だから、迷惑をかけられない。転職先が見つかったということにして辞職を出した。 「まだ元気じゃない」 「元気なうちにバイト始めようと思って。少しでも節約しないといろいろ厳しいよ」  子どもが少しでも育ったら保育園に預けて働くこともできるだろう。だけど、僕は番契約のないΩだから発情期はある。妊娠中は発情期は無いけど、子どもが産まれたら再開するはずだ。 「保育園はαを優遇して受け入れてくれるところが見つけてあるから大丈夫だよ」  すずは、「本当に産むんだね?」と確認すように聞いた。 「産むよ。育てる」  僕は頷いた。  仕事を辞めて近所の大型スーパーで品出しなどのバイトを始めたが、Ω性のせいで辞めさせられた。お腹が出てくると面接には行っても嫌煙されて家に引きこもるようになった。  散歩に出ても後ろ指を差されている気がして落ち着かなかった。  秋になって少し寒くなったころおじさんから携帯の留守番電話にメッセージが入った。 『もうかかわりはないと思ってくれ』  一言だった。

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