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望んだ愛
保育士はにこやかに言いながら彰を僕に渡した。
彰が産まれてからずっとつけている育児ノートも保育士から受け取る。日中の出来事がそれには書かれている。
夜は寝てくれない彰が保育園では大人しくよく寝ていることが書かれている。
「僕のあやし方が悪いのかな……。彰、今日は公園に寄ろうか」
公園で少し遊ばして帰ったら夜は寝てくれるかもしれない。
だけど、興奮した彰は夜にはぐずってなかなか寝てくれない。
「葉山さんっ、いい加減にしてください」
隣の住人からの苦情に頭を下げる。彰を連れて再び外に出た。
深夜になってアパートに戻り、ようやく寝付いた彰を布団にいれる。
その横に入るとすぐに眠ってしまった。
『ドンドンドンッ』
激しいノックの音に目を開けると、側に彰の姿がなくて慌てて部屋を見渡すと彰は大きな声で泣いていた。
「彰っ」
慌てて抱き上げる。ケガや痛いところは無いかと急いで確認するが、目が覚めて遊んでいたようで、激しく叩かれる玄関のドアの音に驚いたようだった。
「葉山さん。何度もお願いしていますが、近隣の方に迷惑をかけるようでしたら……」
玄関前に立っていたのは不動産業者の男だった。
何度も謝って両隣には菓子折りを持って挨拶に行った。
大家さんとの仲介の不動産業者は厳重注意と言って帰って行った。
安いアパートは決して壁が厚いとは言えず、少し騒げば声は聞こえるし、足音も聞こえるほどだった。
「仕事なくなったから他のアパートに引っ越しもできない」
ため息を零して抱っこ紐ですやすや眠る彰にほおずりした。
保育園がお休みの日には彰を連れて買い物に行き、彰と公園で遊ぶ。最近は離乳食を大分食べるようになったけど、もともと料理をする方ではないからレパートリーは少ない。図書館を利用したり役場の育児相談などでレシピを勉強したりするが、仕事をしながらだとそれも難しい。
無職では生活は難しい。職安や求人情報誌で情報を集める。
職安で言われた。
αの子どもの引き取り手はいくらでもあるから、子どもを養子に出したらどうかと。
小さいうちに出した方がいいとも。
小さな彰の手を握りしめる。
絶対、手放したりしない。
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