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望んだ愛

 すずは優しい。僕がΩと分かってもそれまでと変わらずに接してくれた。すずが何年も彼と付き合っているのは知っている。すずも大好きだと公言しているし、僕もすずの幸せを願っている。僕のせいですずを苦しめることはできない。 「分かりました。だけど、急にとはいかないので……」  親しくしていたのに急に疎遠にはできない。会う頻度を減らすとか、連絡を少しずつ減らすとか……。 「ありがとうございます」  智は深々と頭を下げる。この人は本当にいい人なのだろう。 「僕が言える立場じゃないけど、すずをよろしくお願いします」  彰が落ちないように抱えなおして頭を下げた。 「僕、先に帰ります」  智に頭を下げて彰を抱いたままカバンを手に取ると美容院を後にした。 「彰ぅ、なんだか切ないね」  小さく囁いて機嫌のいい彰の頭を撫でた。  髪を切ったばかりの彰の頭を撫でる。ぷくぷくと膨らんだ頬を指先でつついて微笑む。  うん。大丈夫。僕には彰がいる。  街を駅に向かって歩き出して、ふっと思いついて足を駅とは違う方向に向けた。薄暗くなった夕刻。ちょうど2年前だ。  彰を抱っこしたまま早足に進む。  ジーンズにパーカー、抱っこ紐をした上から厚手のコートを着て、彰は抱っこ紐用の厚手の防寒の毛布を掛けている。  こんな格好だと中には入れない。歩いてたどり着いた時には辺りは暗くなっていた。 「彰、ここでさ……」  続く言葉は声に出さなかった。  駐車場を通り抜けて手入れの行き届いた庭に入った。勝手に入ったら怒られるかもしれない。  周りを気にしながら中に入る。  真冬の庭には人気がない。 「誰もいないね」  歩いている間に彰は眠ってしまった。  迷うことなくそこにたどり着いて、深呼吸した。  いるはずがないのだ。そんな偶然はない。  だけど、この甘い香りには覚えがあった。  あの夜の事はすぐにでも思い出せる。甘い香りと激しい欲求。出会ったばかりで、バース性だからなんて関係なかった。互いに惹かれあった結果だったと思っている。  もしも、僕の思い違いでΩのフェロモンによる事故だとしても後悔はない。

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