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歪んだ関係

 桐生……。アキの名前は桐生なんだ。 「お姿が見えなかったので探しました。こちらは?」  彰は泣き止んではいるが、まだしゃくりあげている。 「個人的な知り合いだ。子どもが泣いていて少し休ませる」  不機嫌そうに返事をすると、「遠慮はいらない。ゆっくりしていくといい」と言い添えて掴んでいた腕を放してくれた。かばんは返してくれない。 「俺の秘書だ」  アキの紹介に、「桐生の秘書をしている沢木です」ともう一度頭を下げた。 「すいません。は、葉山です」  頭を下げる。すぐにエレベーターが開いて、「沢木、子ども用の暖かい飲み物を用意してくれ」と言って続けて降りようとする沢木をもう一度エレベーターに押し込んだ。 「部屋はそこだ」  アキはカードキーを使ってドアを開けると、中に入れてくれた。  広々とした室内は奥に寝室があるのだろう、手前には大きなソファーセットが置かれていて、キッチンカウンターもあった。 「ここに座って。コートを」  アキが背中に回ってコートを脱がせた。  重たい空気が二人の間にはあって何から話していいのかお互い口も重たい。 「子どもは大丈夫か?」  泣き止んだ彰の顔を覗き込むと涙の跡ができていて、返してもらったカバンからタオルを取り出した。だけど、地面に落としたせいか汚れてしまっていた。 「ちょっと待って」  アキが立ち上がってキッチンカウンターに常備されているのだろう、温かいハンドタオルを持ってきてくれた。 「温度に気を付けて」 「ありがとうございます」  広げて温度を確かめると彰の顔を綺麗にふき取った。 「マァンマ」  彰はいいながら温かいタオルを手に取って口に運ぼうとする。 「ちょっと、彰、まって、それはダメだよ」  慌ててタオルを取り上げる。かばんの中には彰のおやつも入っていはずだ。果汁の入っていたマグを渡すと彰はそれを急いで口に持って行った。 「喉が渇いていたのか?」  アキに言われて、「そうなのかな」と返事をした。 「まさか君と再会できるとは思わなかった」  アキは微笑んで近づくと僕の頭を撫でた。

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