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歪んだ関係

「僕もあなたに会うなんて思ってもみなかった。今日はたまたま街まで来ていたから……」 「このホテルに用事でも?」  こんな格好でこんな高級ホテルに用事なんてあるはずがない。 「用事はないんだけど」  淡い期待を持って侵入した。だけど、いざ会ってしまうとどうしていいか分からなくなった。逃げ出すことを考えてしまった。 「ちょっと懐かしくて入っただけ」  思い出のあるガーデンチャペル。一夜だけのことだったけど、僕には忘れられない思い出だ。 「あれから2年経ってるんだ。あの時とは状況が違うようだけど」  アキはじっと彰を見つめた。 「ああ、えっと、この子は彰」  呼ばれた彰はマグを咥えたまま手を伸ばした。 「まさか子持ちになっているとは思わなかった」  アキが彰の頭を撫でる。 「ああ、彰は人見知りが酷くて……初対面だと大泣きして……」  不思議に彰はアキに嫌な顔をしなかった。伸ばされたその手を掴んでにへぇらと笑った。 「かわいいな」  アキは手を握られるまま笑った。初対面の相手にこんなに愛想のいい彰は初めてだ。  アキと彰を交互に見つめる。どこか似ているところがないかと探す。  彰の父親は間違えなくアキだけど、アキは全く知らない。  知らせて驚くだろうし、戸惑うだろう。迷惑に思うかもしれない。  まさか再開できるとは思わなかったなんて、僕との再会を望んでいたようには思えない。 「彰っ」  マグを床に捨てた彰がアキに抱っこをせがんだ。慌てて制したけど、それよりも早くアキが抱き上げてしまった。 「取り上げたりしないよ」  アキは言いながら彰の両脇に手を入れたまま高く持ち上げた。彰はそれをキャッキャと喜んで笑う。それにつられてアキも笑った。  親子なんだ。笑った顔はよく似ていて、鼻の形や口元はそっくりだ。  胸にこみ上げる物があって、「彰を返して」とつぶやいた。 「ユキ、そんなに怖がらなくても俺は取り上げたりしないよ。かわいいなぁ。この大きな愛らしい瞳はユキにそっくりだ。1歳ならもう歩くんだろう?」  言われて頷く。 「少しなら歩くよ。最近は物を落とすのが好きで、テーブルとか棚の上の物は落とすし、公園に行くと動物にもすぐ触りたがって追いかけて行っちゃうんだ」

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