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歪んだ関係
「子どもと公園なんて楽しいだろうね」
「うん。何時間でも遊んでいられるよ。なんでもおもちゃにして面白い発見がいろいろあって、雪が降ったらずっと追いかけたりして」
遠出はできないけど休みの日には近くの公園で何時間でも彰といっしょに遊んでいられる。その時が一番幸せだ。笑ってくれる彰をずっと見ていられる。
「幸せそうだな」
アキが微笑む。
「うん。彰がいれば僕は幸せだよ」
周りからどんなに蔑まれて、責められても彰がいれば幸せだ。
『コンコン』
部屋がノックされて、彰を降ろしたアキが入口に向かった。
「温かい飲み物を用意しました」
秘書の沢木が大きなトレーを手に入ってきた。
「お子さんには何がいいのか分かりませんでしたので、数種類用意しましたが……」
テーブルの上に沢木がトレーを置いた。
「あっ、彰。危ない」
テーブルの側にいた彰が置かれたばかりのトレーに手をかけてしまった。
『ガシャァンッ』
「うぁあああぁん」
大きな音を立ててトレーが床に落ちると同時に音に驚いた彰が尻もちをついて泣き出した。
「だ、大丈夫かっ、やけどはっ」
一番近くいいたアキが彰を抱き上げて服が濡れていないか確認してくれる。
「彰、しょう、大丈夫?」
すぐに彰を受け取って確認して、「なんともないみたいだ」とアキから彰を受け取った。
「沢木さんすいません」
やわらかい絨毯が敷かれた床のおかげでグラスは割れなかったが、中身は零れてしまった。
「いいえ。私の配慮が足りませんでした。すぐに片づけます」
沢木がコップやグラスを拾って床に置いたトレーに乗せ、一緒に持ってきたナプキンで床を抑えた。うつむいた沢木の項がスーツの襟から見えた。
赤く薄い噛み跡。
ドキッとして後ずさった。
この人はΩだ。
その跡をまじまじと見つめてしまう。初めて見る噛み跡だ。
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