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歪んだ関係
ぎゅっと彰を抱き締める。彰は僕の子どもだ。それは間違えない。だけど、僕には番がいない。番のいないΩに子どもはほぼ産まれない。それは常識だ。
「番がいない?」
アキの声に、「つ、番はいないけど、彰は僕のこどもですっ」と大声で返した。
「誰にも、渡さない。僕の、僕の子どもだ」
ぎゅっと抱きしめてうずくまる。彰は苦しさにもがくように反応したけど僕を抱きしめ返す。
「発情期なんですか?」
うずくまったまま首を横に振る。
発情期は先月終わったばかりだ。
「じゃあ何で、桐生様に反応……」
沢木がアキを振り返って、「もしかして……『ユキ』?」沢木が小さく呟いた。
「か、帰ります」
カバンを拾って立ち上がって目の前のドアに手をかける。
「まって、待ってください」
今度は沢木が慌てて引き留める。
「帰るって言ってるじゃないですか。放してくださいっ」
声を荒げても沢木は放そうとしない。アキが近づいて、「ユキ。ちょっと落ちついて話をしよう」と声をかけるが、「何も話すことはないです」と抗ってドアを開けた。
ホテルの廊下に出て沢木の手を振りほどいて走る。
子どもを抱いたまま走っても数歩で捕まってしまう。
「頼みますっ、ユキさんっ」
沢木が必死に掴んできて、腕を引かれて彰を落としそうになって慌てた。
彰は泣き出してしゃくりあげる。
「彰、ご、ごめん」
慌ててあやす。沢木が、「す、すいません」と誤って彰の背中を軽く叩いた。
「沢木、ユキ、中に戻ってくれ」
アキが促して仕方なく部屋に戻る。泣き続ける彰を抱っこしたままあやして、泣き止むのを待つ。
「もう眠たいんだと思います」
抱っこ紐を締め直して彰を抱き直す。
「僕には話すことはありません。帰ります」
ここで話すことなんて僕にはない。
アキにはもう番がいて、僕は邪魔者でしかないのだから。
「私たちには話すことがあるので、どうか、ここにいてください」
沢木はなおも引き留める。
「もう彰も疲れているので、今日は帰してください」
彰を理由に帰ろうとするが、「部屋は用意させるから話を聞いてくれ」とアキが懇願する。
2人に詰め寄られて仕方なく、「彰が寝るまで待ってください」と承諾した。
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