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運命の番

 彰は珍しくぐっすりと眠ってベッドに降ろしても起きなかった。  ソファーのあるリビングのような部屋の奥にある寝室を借りて彰を寝かせた。空調も効いていてふかふかのベッドは寝心地がよいのだろう。 「お待たせしました」  ソファーには2人が待っていてアキと向かい合わせで座るように促された。沢木が簡易キッチンでコーヒーを淹れて僕とアキの間のテーブルを囲むように間に座った。 「まずお聞きしたいのですが、彰君は誰の子どもですか?」  沢木が口を開く、「僕の子どもです」と答える。 「誰かの子どもを預かっているということではないですよね?」 「僕が産んだ子どもです」  カバンから育児日誌と母子手帳を取り出して表紙を見せた。  沢木が手に取ろうとして、慌ててカバンに収める。中にはバース性が記されている。血液型もだ。 「Ωの男性は男性のαの番としか子どもができないのは事実ですが、稀に番でなくても子どもができることがあるのは知っています。あなたのパートナーはαですよね?」  沢木に確認されて頷いた。  2人が番であるのなら僕は邪魔な存在で、彰だって奪われるかもしれない。  Ωの男性は男性のαでしか妊娠はさせられない。 「番になっていないのは事情があるからで、産んだのは僕の意志です」  嘘は言っていない。子どもができたのが分かって、アキを探したけどみつけることはできなかった。それに、家族ができたことが僕には嬉しかったし、ひとりででも育てていきたいと望んだからだ。 「あなたに番がいないことは分かりましたが、桐生様が反応したのはあなたがΩだってことだとは分かるんですが……」 「ユキは俺の運命の番だ」  アキがじっと見つめる。 「そんなの都市伝説ですよ」  言い返すと、「俺にはわかる」と言い返した。 「根拠のないことを言わないでください」

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