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運命の番

 沢木にも一蹴されるが、「ユキほど惹かれる匂いがするΩには出会ったことがない」と言い返す。 「僕には分からない」  確かにアキからは甘い匂いがする。近づけば触発されてしまう。身体が欲しがる甘い匂いがする。だけど、それが運命の番だとは分からない。  運命の番なら否応にも惹かれあうとは聞いている。 「沢木と番になっていても惹かれるのはお前が俺の運命だからだ」  強い意志を持った瞳で見つめられる。 「やめて、ください。僕には子どももいるし、今の生活に満足しています。あなたが運命だとしても僕は受け入れられない」  番から奪ってまで運命を貫こうとは思えない。  番を解除されたΩは発情期を再発して2度と番になることはできない。 「沢木とは仕事のパートナーってだけの関係で……」 「でも、番なんです」  沢木にさえぎられた。沢木は望んで番になったのだろう。運命かもしれない僕が現れて被害を受けるのは沢木だ。 「僕は受け入れられない。もしも運命の番だったとしても、僕は望まない」  僕には彰がいる。  今までのように2人で生きていける。 「この2年間ずっとユキを求めていた。他のΩにも出会いはしたが、お前ほど惹き付けられるΩはいなかった。運命だと俺は信じている」  じゃあ、何で、と叫びそうになる言葉を飲み込む。 「信じません。僕は確かにあの日あなたを受け入れたし、同意もしました。あなたに惹かれもしました。だけど、もう遅いんです」  強い言葉にうつむいて答える。握りしめたこぶしをさらに強く握りしめる。  急に運命と言われても混乱するばかりだ。  僕は探したんですよ。あなたを。  子どもができて不安な気持ちと、ひとりで育てる不安、出産という恐怖を一人で乗り越えた。急に現れて運命だと言われても簡単に受け入れることはできない。  早くここから離れたい。  事態は簡単な事じゃない。 「桐生様、無理強いはいけませんよ。ユキ様にはお子さんもパートナーもおられるんですから、2年も前のことをいつまでも引きずってはいけません」 「そうです。2年も前なんです。もう、終わったことです」  アキは納得いかない顔で、「俺は終わってない」とつぶやく。

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