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繋ぎ止める運命
車の後部座席に乗せられてホテルを出た。
「すいません」
僕が謝ると沢木は、「いいえ。無理やり引き留めたのはこちらなので……」と言って、「少し時間をください」と教えたアパートとは違う方向に車の向きを変えた。少し進んだ路肩に車を止めると沢木は話し始めた。
「αの桐生は幼いころからスポーツ万能で勉強もできて、人望もありました。私は高校からの同級生で、桐生に憧れたΩのひとりです。ずっと憧れて、彼についてきたんです」
アキ程のαなら憧れたΩはもちろんβもたくさんいただろう。
『こんなに甘い匂いのするΩはユキだけだ』と言っていた。それは他のΩと比べたからだ。経験がないはずがない。
それに、あんな魅力的なαがもてないはずがない。
「彼の為に秘書の資格も取って、ずっと彼の側で支えてきました。あなたが出会った2年前まで、私は彼の運命の番だと信じていました」
ため息をついてハンドルに乗せた手に顔を付けた。
「彼はあなたに夢中です。2年前から」
「でも、あなたと番になったんですよね?」
「私たちが番になったのはあなたと桐生が出会う3か月前です」
それじゃあ、あの時アキはすでに番っていたってことだ。
あの日は確かに同意だった。互いを求めていた。
惹かれあっていたと、あの時運命の番と言われていたら僕は信じただろう。
結婚式場で出会った。あんなロマンチストな場所で出会った。
「私と番っていても彼は……あなたに惹かれて、夢中でした。探しましたよ」
「探したんですか?」
「ええ。でも桐生は忙しい身で。桐生は先ほどのホテルに出資している海外の会社の社長です。仕事が忙しくて生活のほとんどを海外で過ごしています。日本にいられたのは2年間のうち2週間もありませんでした」
そんな忙しいアキが僕を見つけられるはずがない。
「私は願っていましたよ。運命の番は私だって。だけど、あなたは見つかった。そして、運命を裏付けた」
「運命を裏付けたって……」
「運命の番は番がいても関係ない。運命に導かれて惹かれ合う運命です。都市伝説だって言われているけど、あなたはきっと桐生の運命です。こんな偶然で出会うはずがないんです」
沢木の声は徐々に小さくなっていく。
「もしも、運命でも、僕はアキ……桐生さんのところには行きません。これまで通り、彰と一緒に生きていきます」
運命なのかもしれない。惹かれ合う運命。彰はきっとその結晶だ。
導かれて惹かれ合う運命。彰はきっと僕たちを結びつけるためにできた子どもだ。
すやすやと眠る彰を抱きしめる。
「運命は変えられないんです。きっと桐生はあなたを手に入れる」
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