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繋ぎ止める運命

「桐生さんはあなたの番ですよ」  僕の言葉に沢木は、「私は、桐生を自分の物にしたかった」とつぶやいた。  そんなにアキのことを想っているんだろう。  高校時代からあこがれ続けて、今も側で支えている。こんな想いに僕が叶うはずはない。  こんな一途な想いを汚すことはできない。 「バース性は皮肉なものです。いくら想っても、番になっても運命には勝つことはできないし、逆らうこともできない。私は桐生に愛されてはいません。桐生の幸せを想うなら私が身を引くべきですね」 「そ、そんなことは無いです。僕は一度会っただけで……」 「その一度を桐生は大切にしてきた。ずっとあなたを追いかけて、想ってきたんです」  あの戯れの結婚式と一夜だけのセックス。行きずりでしかないたった一夜。 「運命に導かれて引き合う運命なら必ず出会うだろうって、桐生は信じていました」 「そんなこと言われても、僕は……」  事情があって番えない相手がいると嘘をついた。 「桐生は私の発情期やフェロモンに反応しません。他のΩにも。あなたに出会ってから」  運命に出会ったから、番にはなっていないけど、繋がってしまったから。  僕は他のαに出会ったことがないから他のαに反応するかどうかは分からない。  アキがΩとしての最初の相手で、最後だったから比べようがない。 「この先ずっと桐生はあなたを愛し続けるでしょう。それを私は見続けることはできない。あなたにもパートナーがいるなら同じじゃないんですか?」  子どもまで産ませたαのパートナー。番っていなくても子どもができるほどの間柄のパートナー。 「分からない」 「子どもができるほどの間柄なら、愛しているのでしょう?」  言われて相手を想っているかを考える。  アキのことは確かに想っている。たった一度の関係でも確かに求め合った仲だ。だけど、それが今も続いているかと言われるとそれは分からない。  出産と子育てと生活に追われて、アキを想い続けることはできなかった。  妊娠が分かって探したけど、心のどこかで諦めていた。  再開しても戸惑うばかりでそんな心の余裕はない。 「彼のことは……今はそうでもないかも……」  正直な答え。僕の一番は彰になってしまった。  いまさら運命と言われて求められてもどう答えていいか分からない。

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