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繋ぎ止める運命
慌ててカバンから育児手帳を取り出して確認する。1歳の時に受けていると記載があって、保育士に見せた。
「受けてても絶対ではないし、ちょっとお熱が高いので小児科を受診してくださいね。それと……」
保育園の来年度の受け入れについて説明があった。
数人の保育士が退社することになり、来年度の園児の受け入れを縮小すると。
「大変申し上げにくいんですが、彰ちゃんはαですよね。専門の保育園に転園をお願いします」
「え、でも、入園の時にそれはちゃんとお話しして……」
番のいない独り身のΩの子どもは預かれないと断られたのだ。小さな子どもにはバース性はあまり関係ないが、送迎の親はαが多く、Ωの独り身と鉢合わせるのは困ると断られたのだ。
仕方なく一般の保育園を探して、何個も落ちて今の保育園に入ることができたのだ。
「彰ちゃんしばらくお休みですね」
保育士は突き放すようにそう言うと、園で預かっている物は後日取りに来てくださいと言った。
もう退園は決まっている。
ああ、仕事が見つかっても次は保育園か……。
保育園が見つからなければ仕事に行けない。
熱のある彰を抱っこしてバス停に向かう。熱でぐったりしている彰をバスには乗せられない。それにおたふくかぜだったらウイルスを拡散させてしまう。
仕方なく客待ちをしているタクシーに乗せて近くの小児科に向かったが、時間外になっていて仕方なくバース性専門の病院に向かった。
小さな子どもでもα性の彰は診てもらうことができた。
待合室で待たされながら、「彰、大丈夫?」と声をかけて、抱きしめる。
赤いほほを撫でて、時折水を飲ませて……。
今朝は元気だった。昨日の晩は相変わらず夜泣きをしていたけど、調子が悪い様子もなかった。
「ユキ?」
聞き覚えのある声に顔を上げると、そこにアキが立っていた。
「アキ?」
どうしてこんなところにいるのだろう。
「どうした。彰は病気か?」
抱きしめている彰を覗き込む。
「今、保育園から連絡があっておたふくかぜかもしれないって、熱が高くて……」
説明するとアキは、「それは心配だな。つれはいないのか?」と聞いた。
首を横に振る。
「友紀っ」
病院の廊下にすずの声が響いた。
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