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繋ぎ止める運命
『立退き請求』と書かれたそれには不動産屋の名前も書かれていて、今月末までに退去を命じる書類だった。
「どういうことですか?」
「えっと、このアパート独身用なんです。彰と一緒に生活してるのは大家さんに承諾はもらっていたんですが、近所からの苦情が多くて……」
さっき、智が言っていたアパートの契約についてはこのことだろう。
携帯には再三連絡が入っていたし、そのたびに平謝りをするしかなかった。
「今月末とはいささか急ですけど」
沢木は張り紙を剥がすと、「これもこちらで検討させて頂きます」と言った。
もう、従うしかないだろうなと頭を下げる。
「あなたの悪い様にはしませんよ。桐生様はお優しいので」
沢木が僕の頭を撫でて、「明後日、ここに迎えに来ます」と言って車に戻って行った。
後部座席に座ったアキは両手で顔を覆っていた。
ドアを開けて中に入る。
一間のアパートの中は小さなたんすが一つと座卓、本棚があるだけで、その座卓を移動させると布団を敷いた。
熱冷ましの薬が効いているのか、彰はぐっすりと眠ってくれた。
翌日には元気になったが、保育園はお休みして退園の手続きを取る連絡が来た。職場に連絡をいれると子どもを連れての仕事は受け入れられないと言われて、退職することになった。
「彰、何もなくなってしまったよ」
アパートも不動産屋に連絡すると、沢木が先に連絡をしていて、月末に退去することが決まっていた。
布団の上に座った彰が、おもちゃを手に持って遊んでいる。
「彰ぅ~」
遊んでいる彰の横に転がって一緒に遊ぶ。彰はキャッキャと喜んで上に登ってきた。
これからどうしていいか分からなくなってしまった。
今まではなんとか2人でやってこられた。
「導かれるって……無理やりでも引き寄せられるってことなのかな」
運命の番は導かれて惹かれ合う運命だと聞く。それは番がいても関係ないと。
アキは確かに魅力的なαだ。よりよい子孫を残すためにより優秀なαに惹かれるのがΩだ。だから、運命じゃなくてもΩはαに惹かれる。
まだ数回しか会ったことないアキに惹かれるのは『運命』なのかもしれないと疑ってしまう。
惹かれている。
確かにそうだろう、近寄れば甘い匂いに引き寄せられて発情してしまう。
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