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繋ぎ止める運命
アパートの件はすずにも連絡が何度か入ったようで、心配してくれている。
「今月末で退去する。沢木さんがそれもなんとかしてくれるって言ってた。明日にならないと分からない。すず、彰の保育園だけど退園することになって、仕事もそれだと無理だから辞めたよ。何もなくなっちゃった」
『えっええっ、どうするのよ』
すずの声は慌てている。
「うん。明日、明日になってみないといろいろ分からないや」
明日の話し合いで何とかなるといいな。悪い様にはしないと沢木さんは言ってくれた。
もう、その言葉にすがるしかない。
「沢木さんが、悪い様にはしないって言ってくれたから……。それを待つしかない」
親戚はすずしかしない。すずに頼るわけにもいかない。
『悪い様にはしないって言ってくれてるなら頼ればいいよ。いざとなったら、訴えちゃえばいいよっ』
すずはいいことを思いついたというように、暴行罪や強姦罪などを並べたけど、「そんなことできるわけないでしょ」と窘めた。
『明日、どうなったか報告してね?』
「うん。分かった。絶対するよ。すずは? すずは智君と仲直りした?」
『したけどぉ~。あのヘタレ具合にまだイラっとしてる』
すずは智の愚痴を言って、またねと電話を切った。仲直りしたなら安心だ。
智の結婚に智の家族が心配するのは当然だろう。親戚にΩがいるだけで反対されるのはごく当たり前のことだ。
父さんと母さんは恋愛して結婚したはずなのに、僕がΩと分かったとたんに離婚し、母は自ら命を絶った。祝福されるΩなんていないのだ。社会から嫌悪される存在でしかない。
彰が産まれて余計にΩの暮らしにくさを痛感した。
ひとりで育てる難しさも知った。彰は可愛い。こうして遊んでいると苦労なんて思えない。
明日、どうなるのか分からないけど彰だけは手離さない。
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