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手繰り寄せられる心
熱い。
この人は僕の運命だ。甘い匂いはますます強くなる。
「僕は、あなたの事をよく知らない。だけど……僕も同じように2年間あなたを想って来ました。あの日の事はただの戯れだったんだろうけど僕はずっと、あなたを探していました」
アキを見つめ返す。
こんなに惹かれる相手は他にいないのだ。
沢木がいても惹かれるのは運命だからなのだろう。番がいたら番以外のフェロモンに惹かれる事はなくなるはずなのに、こうして甘い香りに翻弄されるのは運命だからだろう。
番となった沢木が番を解消されたらもう二度と番契約はできないし、一生発情期に悩まさる事になる。だけど、その犠牲を払ってでも、僕はアキを自分の物にしたいと願ってしまった。
愛してると言われて、心の底からこの人に愛されたいと願ってしまった。
「沢木さんごめんなさい。僕は、アキと番になりたい」
沢木は長いため息を吐くと顔を覆った。
「運命だと、運命の番だと……私が一番実感させられています。遠くに離れてもなお導かれて出会ってしまう。惹かれあってしまう。桐生が私を愛していないことも分かっています」
沢木は顔を上げると、「約束は守ります」とアキに言った。
「約束ってなんですか?」
アキと沢木が言う約束とはなんだろう。
「この帰国中に俺が運命の番のユキを見つけることができたら番を解消する約束をしていた。見つからなければ運命ではなかったと、運命の番は沢木だと認めて一生添い遂げる約束をしていた」
「ユキさんが運命と認める事も約束の内に入っています」
「運命だと、信じる理由が僕にはあって……」
膝の上の彰をぎゅっと抱き締める。
たあの一晩だけの逢瀬。
惹かれ合う運命の番のと決定付けるに値する存在。
「彰はアキの子どもです」
「「え?」」
二人が聞き返す。
「僕には番もαの相手もいません。あの日、一晩だけのあなたしか僕には相手はいません」
二人は困惑して言葉を失う。沢木は先程アキに渡された書類を捲って、彰についての書類をテーブルに広げた。
「月齢が一致しないのですが」
指差されたのは彰の生年月日。
僕は床に置いた鞄から彰の母子手帳を取り出した。
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