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甘い契約

 風邪とは違う違和感に、「風邪っぽいから今日は来なくていい」と彰人にメールで連絡を入れると、予定より早い時間に沢木がやって来た。沢木は、「車が待たせてありますからすぐに行ってください」と言って僕に抱かれていた彰を抱っこする。彰はキャッキャと喜んで沢木に抱きついた。 「彰はここで私とお留守番です。急いでください」 「急に何ですか?」  風邪っぽい事を沢木に伝えると沢木は深くため息をついた。 「全くあなたと来たら、発情期ですよっ。さっさと支度して桐生のところに行きなさい」  沢木は顔を赤くして怒った。  ああ、そうかと体の不調の原因を理解した。 「でも、いつもと違う気がするんですよ」  いつもは徐々に身体が熱くなってくるのだ。今日のように寒気が来る事は今までない。 「寒気がするって事は今から熱くなるサインですよ。ユキさんは発情期が軽いんでしたでしょう?」 「ええ。抑制剤も良く効くので軽いですね」  彰人と番になる為に抑制剤は飲んでいない。 「私は発情期が重いので、毎回酷い寒気がするんですよ。運命の番と番うんですから、今回は発情期が重いんでしょう」  沢木は早口に言う。今回の発情期は重い。近くに運命の番がいるからだろう。  前に彰人とセックスした時は発情期ではなかった。だけど、発情期にも似た熱さを感じていた。それが、発情期となるとどうなるんだろう。 「さ、沢木さんは……」 「発情期中の事なんて私に聞いても答えられませんよ。桐生とは一度だけでですから。意識も無かったんですから」  沢木は機嫌悪くそう言って僕に早く行くように促す。  携帯と鞄を握ってマンションから出ると外には沢木が用意した車が待っていて、後部座席に乗り込むとすぐに出発した。  彰人が拠点にしているホテル。  初めての時もこのホテルだった。  駐車場に車は止まった。  彰人についた事を知らせるメールを送るとそこで待つように返信がすぐに届いた。  そことはガーデンチャペルだ。  駐車場を横切ってホテルの庭に向かう。夕方ともあってチャペルは使われていない。だけど、真ん中を通る白い石畳のバージンロードを照らすように明かりが灯してあった。 そこに立つと、背後から甘い匂いが近付いて腕を絡めた。 「アキ……」

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