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甘い契約

 呼びかける声の吐息も熱く感じる。 彰人は「一歩ずつ」と言ってゆっくりと歩き出した。 彰人の横顔を見上げる。  あの夜以上に体の奥がグズグズと疼くように熱くなるのを感じる。彰人のフェロモンが触発されてさらに甘い匂いが強くなるから、余計に煽られる。 一歩、一歩祭壇に近づいていく。 「何だ。惚れたか?」 スラリと背が高く、上品な顔立ち。髪を後ろに流して固めている。見つめていた僕に口端を上げて笑った。 「そうですね。ずっと変わらないです」  あの夜に惹かれた容姿のままそこにいる。2年も経っているのに引き付けてやまない。 「お前もそうだよ」 彰人が微笑んで言いながら一歩ずつ進んでいく。 自然と笑顔になった。  2年間でいろいろな事があった。大変なことばかりだったけど、過ぎて仕舞えばその辛さも薄らいでいく。今からの生活に不安が無いわけじゃないけど、今からは2人で乗り越えていく事ができる。頑なだったけど支えてくれる人がいると思うだけで心にゆとりができる。今まで以上に彰を愛する事ができる。 祭壇の前まで歩いてくると彰人は、「結婚式にはちゃんと神父を用意するし、彰も参列させる」と言って僕と向き合った。 結婚式の予定はないのだけど、彰人は考えているのだろう。今日はどうしても二人きりでしか行えない。 「汝は、この者を妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」 スラスラと間違えることなく彰人はしゃべり、「イエス」と答えた。 「汝は、この男を夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」 「イエス」 答えた僕の顔を覗き込むと、顔にかかる前髪をかき上げるように撫でた。 髪をかき上げた手はそのまま僕の後頭部を押さえて僕の唇を覆い、軽いリップ音を立てて離れた。 「今、この両名は天の父なる神の前に夫婦たる誓いをせり。神の定め給いし者、何人もこれを引き離す事あたわず」

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