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甘い契約

 お互いの緊張が余計に緊張を高めてしまっている。彰人も緊張することがあるんだなんてぼんやりと思った。  部屋を見渡すと窓際の小さなテーブルの上にグラスとペリエの瓶が置かれていた。  飲んでもいいって事だろうとテーブル横のソファーに座ってグラスに注いだ。  ペリエの炭酸が喉を潤してくれる。  ついた時は夕焼けだった空はすっかり暗くなっていて窓の外には夜景が広がっている。彰は沢木にすっかり懐いていたから大丈夫だろうけど、他人と寝るのは初めてだから大丈夫だろうかと心配になる。  念のためスマホを確認しても通知は1つもきていない。連絡がないのもちょっと寂しいなと思うのは親心だろうか。  手持ち無沙汰にソファーに座って膝を抱えた。  身体が熱い。  あの夜のことを思い出すこともあった。アキを恋しく思う夜もあった。  発情期は軽いから火照ってどうしようも無いことはなかったけど、今日は違う。  熱さに身体が火照る。  膝を抱えていないと落ちつかない。  彰人、早く出てきてくれないだろうか。  じっと浴室のドアを見つめる。スーツのジャケットとズボンは違うところに片付けたんだろうけど、クリーニングにでも出す予定なのかワイシャツが向かいのソファーに無造作にかけてあった。  それを手を伸ばして引き寄せる。  うっすらと香る彰人のフェロモンの甘い香り。ゾクっと身体が疼くのを感じて引き寄せたそれを胸に抱き寄せる。  膝に乗せたシャツに顔を埋める。  ああ、アキの香りだ。  あの夜と同じ。 「ユキ?」  声がして顔を上げると同じバスローブ姿の彰人がソファーの横に立っていた。 「ああ、これは……」  シワになったワイシャツを慌てて向かいのソファーに投げる。 「Ωの巣作りというらしい」  彰人は笑って、「欲しいならいくらでもやるぞ」と言った。 「欲しいわけじゃないです。匂が……したから」  恥ずかしさに赤くなるのを感じる。匂いだけも今欲しかったのだ。 「もっと匂いが嗅ぎたいか?」  彰人が腕を掴んで引上げた。驚いたけど、その胸に抱きしめられた。肩に顔を埋めるとその甘い香りが強くなる。

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