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もう一つの運命
小さな小さな手を見つけた。
白い布に包まれた隙間からそのうっすらと赤く色づいた手を、ゆっくりと摘んだ。
「男の子ですよ」
麻酔でぼんやりとする意識。
まだはっきりと覚醒してなくても聞こえる子猫の様な弱々しい鳴き声。
寝ている僕のすぐ枕元に置かれた布に包まれた赤ん坊。
知らずに涙がこぼれ落ちる。
「やっと、会えた」
ふっと感じる甘い香り。あの香りと似た香り。
αだ。
アキの子だ。
泣きながらでも強く握り返してくる小さな手。
看護婦が何か話しているけど、耳には入ってこなかった。
起き上がって抱き締めたいけど、麻酔が切れたばかりでは身体が動かない。
『ユキ』
呼ばれた気がして、視線を彷徨わせてもそこに姿はない。
「名前は、彰だよ」
泣き続けている赤ん坊に話しかける。
泣いてクシャクシャの顔にそっと触れる。
小さなその顔は泣くのをやめて手を追うように顔を動かす。
ああ、鼻はアキに似ている。
口元も。
愛しい人と同じ香り。胸が締め付けられる。
僕のところに来てくれてありがとう。
僕に最高の家族を与えてくれてありがとう。
側にいないけど、僕の側にその存在を与えてくれてありがとう。
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