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第10話
★ ★
彼は自分が、寝台で眠っていたことを知った。
身体を起こし、傍らの窓越しに見上げると、太陽は既に随分高いところまで昇っていた。
昨日は寝台のなかにいても全く眠れず、こっそりと家を出た。森を抜け、谷に入り、そして──。
白銀 の美しい獣に出会った……。
でも……あれは……夢だったんだろうか。
その後の記憶が全くない。
本当はすぐに眠ってしまったのかも……。
考えてみても、はっきりと思い出せなかった。
「イオ……」
ふと現実に戻る。
どうしたんだろう。
こんな時間まで起こしに来ないなんて。
もぞもぞと寝台から降りた。
木の扉に耳を当てそっと様子を伺う。窓の外からの鳥の声以外は、なんの音も聞こえなかった。
いない……?
思いきって扉を開けると、やはりそこには誰もいなかった。
釜戸にスープの鍋はかかっていたが、火は消えていた。
水場には一人分の食器が洗って置いてある。イオが使ったのだろう。
谷にでもいったのかな……。
あの日から数日が経ち、今までと同じようで違う日常を送っていた。何処かふたりの間に距離があるような。
や……。ボクだけかも……。
イオは何も変わらない。
トールは深いため息をつくと、食卓の椅子に腰をかけた。
★ ★
ぼんやりと食卓に頬杖をついたまま、気づけば、部屋のなかは薄暗かった。
卓上のランプに火を灯し、自分の周辺だけを明るくする。他を点けて回る気力もなかった。
イオ……こんな、時間まで……。
何かおかしいと感じた。
おかしいと言えば、朝からだ。
イオの態度は今までと変わらない。変わらないから、ここ数日もいつも通り朝起こされた。
それなのに。
まさか……。
胸が騒めく。なんとも言えない不安感のようなものが押し寄せてくる。
なんですぐに探しに行かなかったんだろう。
椅子を倒すような勢いで立ち上がり、大股で扉に向かう。
その時、異変を感じた。
ここは村の外れ。これまでに村の人たちが訪ねて来たことはほとんどない。あの日の村の人たちのイオに対する態度を思えば、避けられていたのだとわかった。
それなのに、扉の向こうで人の気配を感じる。イオではない、別の誰か。
ガシャンガシャン。
イオが鍵をかけていったのだろう。
開かない扉の、鉄製の取手を激しく音を立てて引いているようだ。その度に扉が振動する。
開けようかどうか迷った。暗い窓の外に、幾つもの灯りが揺らいでいるのが眼に入った。一人ではないらしい。
不安だけでなくなった。恐怖も忍び寄る。
追い打ちをかけるように。
ドンドンドンッ。
何者かは、激しく扉を叩き始めた。
「イオーっっ!!」
父さんを呼んでる?
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