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第11話

 ドンドン激しく叩いては、取手をガシャンガシャンと引くを繰り返す。  狂ったような音が静かな部屋に響き渡る。 「イオ! いるんだろっ! 出ておいでっっ!!」  この声……。伯母さんじゃ……。  イオ! イオ! とがなるのを聞きながら、トールは内側から鍵を開けた。その途端扉が引っ張られ、彼も外に飛び出す。 「トール」  フィンの母親リィナもそのことに驚いたのか、ぴたりと動きを止めた。 「あの……伯母さん? 父さんは今いません」 「そんなはずないだろう?」  じろりと睨む。今までの激しい行動で真っ赤になった顔を醜く歪ませていた。  彼女は一人で扉の前に立っていた、灯りも待たずに。窓から見えた揺らぐ幾つもの灯りは、まだ少し遠くにある。  トールの記憶の中で、リィナがこの家に来たことはない。用事があれば、フィンかその父親──リィナの夫がやって来る。  トールが彼女の家に行くと歓迎は薄いものの邪険にされることもなかった。手作りのお菓子を持たせてくれることもあった。  とすると、理由はイオにある。リィナはイオを酷く嫌っていた。それを曲げてでもここに訪れた理由が、好意的なことでないことぐらいは解る。  いったい、なんだっていうんだ。 「いません。ボクが起きたら、もう出かけた後で」 「本当に?」 「本当です。ボクも心配になって今探しに行こうかと」 「心配なんかする必要ないっ!」  急にまた激昂。ずっと困惑しているトールに追い打ちをかける。 「あの男はね! 人殺しなんだっ!」 「はっ?」    ひ・と・ご・ろ・し?    そう、聞こえた。  なに? 聞き間違い? 「おばさ──」 「お前の(ほんとう)の父親は、あの男に喰い殺されたんだよっ!!」 「え……!?」  ほんとうのちちおやは、イオにくいころされた──?    頭の中でその言葉を反芻するが、なかなか飲み込めない。 「リィナ!」  そこへバタバタと灯りを持った数人の男たちが駆け寄って来た。 「それからっ! フィーネも」 「フィン?」 「フィーネも、あの男に喰い殺されたんだよっっ!!」  激しく肩を揺さぶられる。  鬼のようなその顔は涙でぐしゃぐしゃだった。 「リィナ! いい加減にしろ。フィーネはまだ死んでなんかないっ」  夫のカイトがトールから引き離す。 「あ……」  大人たちが持つ灯りで照され──その時初めて気づいた。 「血……」  伯母の白いエプロンドレスが紅く染まっていることを。そして、伯父カイトの白いシャツにも。 「トール、リィナの言うことは気にするな。こいつは、どういうわけか、昔からイオが別人だと思い込んでるんだ」  カイトの声が遠く近く聞こえてくる。  血が……。  頭が……ぐらぐらする……。  

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