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第12話

「フィンは……怪……我を……?」  視界が歪むなかで、やっとそれだけを口にする。 「ああ……かなり、酷い怪我だ、獣にでも噛み千切られたみたいな……」  噛み千切られた……女の子……。  脳裏に浮かぶのは……。  恐怖に見開かれた瞳。蒼白な顔。夥しい血。衣服も肉も喰い千切られ……。 「フィンは、助かるの?」  何処か遠い世界の出来事のように、口だけが動く。 「…………お医者様は、今夜が峠だと…………」  フィン……ボクの可愛い従妹。  いなくなってしまうんだろうか……。  脳裏で、血(まみ)れの女の子は消え、無邪気に笑うフィンに変わる。  それを掻き消すように。 「あの男がやったんだ! フィーネもっ! もっ!」  カイトの背後から狂ったような声がする。 「はフィーネを見つけて家まで運んできてくれただけだろ。第一、あの子の傷はどう見ても、人間(ひと)につけられるものじゃないよ。あれは獣の牙で裂かれた傷だ」  娘を思えば、そんな心境でもないだろう。それでも静かな声音で妻を諭す。  しかし、彼女は更に言い募る。 「だからじゃないのさっ! あの男がやったんだっ! あの男は、人間なんかじゃないっ。“悪魔の谷”の魔物なんだよっ」 「リィナ! もういいから。フィンのところに戻れ」  カイトは、傍にいた数人の男たちに託すように、妻のぐいっと背を押した。 「あたし、知ってんだよ。あの男の髪が真実(ほんとう)は銀の髪だってこと! それに、あの(ひら)かない瞳が銀色だったこともね。リリカが言ってたんだからっ。あははははーっ」  狂人のような笑い声。  男たちに両腕を取られながら遠ざかっていく。 「きっと、リリカもあの男にーぃ」  その場には、カイトとトールだけが残った。 「悪かったな。リィナが変なこと言って」 「伯母さんが言ってた……イオのこと……母さんのこと……」 「トール」  呆然と呟くトールの肩に、ぽんっと慰めるように両手を置く。  それに弾かれたように顔を上げ、カイトを見つめる。 「イオはどうしてこんな村外れに住んでるの? どうして村の人たちはあんな眼でイオを見るの? どうして父さんは、母さんの話を一度もしないの? それって伯母さんが言うようにっ」  どうして? どうして? どうして!! 「莫迦言うな、そんな筈ないだろう」  一気に疑問を投げつけようとして、途中で遮られた。 「イオが“悪魔の谷”の魔物だなんて。そんなこと誰も思ってやいないさ」  そう……? そんな筈、ない……? 「じゃあ、どうして……」

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