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第13話
「ただ、彼は外から来た人間で、村の者はやはり余所者を敬遠するところがある。だからイオは村の外れに家を作った」
「母さんは……なんで……」
なんで……いない……。
「リリカは元々身体が弱くて……その」
トールの肩から手を離した。言いにくそうに、視線も反らす。
「お前を産んでからは、寝たり起きたりを繰り返すような感じだった。だから、お前の面倒はほぼイオが見ていたよ」
「ボクが産まれたせいで母さんは……」
だから、イオは母さんの話をしないのだろうか。
ボクが母さんを……。
トールの心を読んだかのように。
「リリカが死んだのは、お前のせいじゃなく。そうだな……イオが大怪我をして生死をさ迷ったから……かな。さっきリィナが喰い殺されたって言ってたが……まぁ、実際には助かったわけだが、恐らく森の獣に襲われたんだろう、そんな傷痕だった」
獣に襲われたイオ……。
血が。
また、脳裏に浮かぶ。見たことがないはずの映像。
血に染まった……何か。
獣の影……。
あれは……?
「イオは峠を越したが、看病していたリリカの方が倒れてしまい、そのまま……。リィナとリリカは仲の良い姉妹だったし、イオと一緒になるのは反対だった。だから、リィナがイオを良く思わないのも解らないではないが。なんであんなこと言ってるのか……」
トールの蒼白な顔を痛ましげに見る。肩を抱いて、家のなかに入るよう促す。
「すまないな、トール。一緒にいてやれなくて。…………そのうち、イオも帰ってくるだろう。家 で待ってるといい」
トールの頭を元気づけるように一回撫で、カイトは背を向けた。
そして、扉を閉める間際に。
「──イオは怪我をした後、少し印象が変わった。村の者を避けるようになり、“悪魔の谷”に入り込んで狩りをするようになった……そのせいか、村のみんなも……」
パタンと静かに扉は閉められた。
イオは……変わった……。
怪我をした後……。
「あ……血……」
独りになって、ふと気づく。
服のあちこちに擦れたような、紅い染み。伯父か伯母の服に付いていた血が移ったのだろう。
途端、頭がずきずきと痛み始め、ぐにゃりと見るもの全てが歪んだ。
獣に裂かれた、血塗 れの女の子。
獣に裂かれた、イオ。
交錯する二つの映像。
イオの姿が──より鮮明に。まるで、見たことがあるかのように脳裏に浮かび上がる。
服と言わず、肉と言わず、あちこち引き裂かれ、全身血に染まった男。
金色の髪は地に広がり、両の青い瞳は恐怖に見開かれてる。
それから。
銀色の獣。
いた……父さんの傍に……父さんをその爪と牙で……っ!
眼の前が真っ暗になり、身体が傾いでいくのをトールは感じた。
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