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第18話

「見たことないのに、懐かしいってなんだよ」  ははっと乾いた笑いを漏らす。 「でも…………」  何故こんなにも“悪()()谷”に焦がれていたのか。  何故毎日のようにここにやって来るのか。   「まるで、何かを探しているかのように……」  いったい何を……?  伝説の“銀の魔物”? 父親を喰い殺したという? (かたき)を討つ為に……とか?  まさか。  何度も繰り返してきた問いに今日も答えは出ず、身を翻し、森のなかへと入って行った。   ★ ★ 「なに? なんか用?」  ここ数日彼気分は下がり加減だった。  様々な想いが渦を巻いて、谷に行っても草原に寝転んで物想いに耽るばかり。  フィンは谷に行く前も、出かけるトールを少し離れたところから、物言いたげに見つめていた。  そして、夕闇迫る今も。  何もしていないと言うのに、疲れた身体を引き摺るようにして帰って来たトールの前に現れた。  フィンが嫌いなわけではない。一緒に住んでいた頃は、本当の兄妹のように暮らしてきた。  村外れの家に住むようになってからは疎遠になってしまったが、今も可愛いと思っている。  しかし今のトールは機嫌の悪さを隠すこともできず、きつく言い放ってしまう。  フィンの方に身体を向けたが、近づきはしなかった。  彼女はその声にびくっと身体を震わせた。それでも逃げ帰ることはせず、何事かを考えている素振りをしている。 「用がないなら帰んな。もう夜になる」  フィンを思いやる言葉であっても口調は厳しい。拒絶するようにさっと背を向け、家に入ろうとする。 「あのね!」  扉が閉められようとした瞬間。  怯えて小さくなっていたとは思えないくらいのはっきりとした声。  トールが動きを止めたのがわかると、ぱたぱたと小走りに近づいた。  扉で半分隠れた背中に向かって。 「私、思い出したの。そしたら、みんなの記憶がおかしいって気づいたの」 「…………」 「貴方もよ、トール」 「…………なんの……こと?」  どくんと心臓が鳴る。  聞いちゃいけない気がする。  聞かなきゃいけない気がする。  相反する予感。 「私たち、一緒に暮らしたことなんか、なかった」 「え?」 「トールのお母さんはいなかった。でも、お父さん──とふたりでずっと暮らしていたのよ」 「何言って──そんな筈ないだろ」  心臓がばくばくいっている。平静を保つ為に冷たい笑みを浮かべた。 「一緒に暮らしていたイオが、トールの本当のお父さんかどうか、判らないけど……お母さんがっていつも言っていたから…………」  

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