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第35話

★ ★ 「したことないんだな」 「ない……聞かなくてもわかってたんだろ」  ぷくっと頬が膨らむ。 「まあ……。でも、嬉しいよ」  ふふっと、眼を細めて微笑(わら)う。その顔が本当に嬉しそうで、膨れっ面ではいられなくなった。 「……もう一度」  先程のねだるような顔ではない。静かだが、黙って従わせるようなものがあった。  口閉じて……そっと……。  胸の内で唱えながら、そっと近づける。  先程は感じられなかった、ふにゅっとした感触。それだけで脈が跳ね上がり、すぐに口を離そうとした。  が、それは許されなかった。  いつの間にか自分の頭の後ろに回された大きな手にぐっと押さえこまれた。自然、再び唇が合わさり、自分から押しつけてる感覚になる。  それがとても恥ずかしく思えて、早く離れてしまいたくなる。しかし、イオが離さない。トールには酷く長く感じられた。  唇をつけたまま角度を変えたり、吸い上げられたり。  息苦しくなった頃、唇は離れた。  はぁはぁと荒い呼吸をする。  イオが起き上がって、その背を(さす)った。 「イオ……ボクの、想い……感じてくれた……?」  上目遣いにイオの顔を見る。  その顔に何処と無く不適な感じのする笑みが浮かんでいる。 「もっと」 「も、もっと?」 「口開けて、舌出して」  し……舌?  どうしてなのか全くわからず、言われるままにおずおずと舌を出す。  獣が舌舐りするように、ぺろっと自分の唇を舐めたのが見えた。そして、同じように舌を出す。  …………?  ゆっくりと。  は近づき、トールのと触れ合う。 「え」と思った瞬間。  舌が絡み、捉えられる。  ふたつは絡み合ったまま、トールの口のなかに納められた。 「んん」  驚いて声を上げようとするが、思うようにはいかない。喉の奥が震えるだけ。  イオの舌が、咥内を余すところなく舐め回す。  苦しくても逃れられないように後頭部は押さえ込まれてしまっていた。  触れるだけでも初めてなのに……。  こんな……。  先程よりもずっとずっと長く、激しい。  口を離すことを許されず、咥内一杯に唾液が広がる。飲みきれず、顎を伝って滴り落ちる。    苦しいのに……。  なんだか……気持ちがいい……。  それに……。  それ以前から、熱くなっていた肉体(からだ)は更に熱さを増し、中心がむずむずしてくる。  今までに感じたことのないような……。  意識は熱に浮かされたようにぼんやりとしていた。  さわ……。  微かに肌に何かが触れている。  さわ……さわ……。  それは腹の辺りをゆっくりと這い、背中に回る。つつーっと、背骨に沿って下から上へと撫ぜていく。

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