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第36話

   ぼんやりとした意識が急速に浮上して、はっと気づく。 「イ、イオ……っ。なに……っ」  軽く彼を押し退けた。  拒絶したように思われたかと不安になって、慌ててイオの顔を見る。 「どうした? 嫌……か?」  そう問われ、首を横に振る。 「ううん、いや、じゃない」  いや……じゃない。  ただ、びっくりした……あんなふうに触れられるのは、初めてで……。  イオには今までも傷を舐められたり、涙を舌で拭われたりしていた。たぶん、()から見たら少し変わった行為だろう。  それでも、まだ、父親の域だった。    けど、あの触れ方は違う……。  もう、全く父親のものじゃない。  あれは……? 「なら……良かった」  答えは、その瞳のなかにある。  熱い熱い瞳に射竦めれていた。  ふぁさ……。  瑠璃の花のなかに柔らかく倒された。両手は顔の脇で、指を絡めた状態で縫い止められている。  真上から見つめてくる瞳。  その形の良い唇が動く。 「、愛してる」 「──!」  それは短いけれど、魂を揺さぶる言葉。  自分への言葉でもあり、もうひとりの自分への言葉である。  そう感じた。  でも、それを返せる程、まだ感情がついていかない。  ただ、心臓は跳ね上がり、身体中が熱くなる。 「もっと……お前に触れたい」  答えは聞かず、イオが胸許に顔を(うず)めた。  鎖骨の、己のつけた(しるし)に口づけ、強く吸い上げる。   「ん……」  それだけで、吐息が漏れる。  充分に堪能すると、唇は徐々に(のぼ)っていく。  喉許。首筋。そして、耳へ。  耳朶を甘噛みし、全体を舐め回して、穴のなかまで舌を差し入れてくる。  ぐちゅぐちゅと反響する音。    な……に……。  なんか……すごく、恥ずかしい……。  それだけでない。  解かれ離れて行った片手が、上衣の裾から入り込み、自由に動き回っていた。触れるか触れないかの微妙な加減で腹を撫で、胸の辺りで(とど)まる。  自分では触れたこともない。  女性のようにふっくらしているわけでもないを揉み(しだ)かれ、先端を捏ねくり回される。 「ひゃっ」    変な声が出てしまい、身を捩ろうとするが動くことができない。太腿の両脇を膝で押さえ込まれていた。  更には、腹に腹を合わせて、重みが伸しかかってくる。  え……。  腹に熱いを感じた。  これって……。  思い当たって、かっと顔に熱が溜まる。  そして、それと同じ熱さが自分にもあると、自覚した。 「、熱いな」  そう嬉しそうに言うが、トールの方は羞恥で頭が溶けそうなくらいだった。 「イ、イオ……ボク……恥ずかし……」 「そんなことはない──私を想ってくれている(あかし)だ」

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