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3.第一印象は最悪
獣人の青年に抱きしめられ…
ゆっくりと、美しい顔が近づいてくる。
それをハルはぼんやりとしたまま見つめ、触れ合う直前、ハッと我を取り戻し…
利き手を振り上げ、叫んだ。
「…っ!!なにすんだよ!!!!変態クソ野郎!!!!」
パァン
ジャングルの澄み渡った青空に、清々しいまでに見事な張り手の音が響いた…
ビンタされた青年は赤く腫れた頬を押さえて、ぽかんと呆気に取られた顔でハルを見つめ…
ハルもハルで、まさか獣人調査のため訪れた地で初対面の男をビンタすることになるとは…と混乱し…
抱きしめたまま・抱きしめられたまま牽制しあう一触即発の状況…
それを打開したのは駆けつけてきた老執事と、教授だった。
「ユキ様!その方からお手をお離しください!」
「ハルくん!大丈夫か?」
青年は老執事に引き剥がされ、ハルは教授に引っ張られる。
ハルはまだドキドキと胸が鳴っているが、身体が離れると、すこしずつ平静さが戻ってくる。
(び、びっくりした…!!!)
(なにが起きたんだ!?)
青年の甘いにおい…触れられたときの胸の高鳴り…自分の身に何が起きたのか。
「ハルくん、彼はね、ここを治めてる王族のご子息ユキくんだよ」
教授にそう説明されて、青年の気品溢れる立ち姿と上等な服の理由に納得した。
でも…
「ユキ様!このお二方はお父様の大切なお客様ですぞ!正式な場でのご挨拶もなしにお客様と親密な接触をするなど真摯にあるまじき行為で…ごちゃごちゃ…
…失礼致しました。◯◯教授、お久しぶりでございます。お連れのお客様にもユキ様が大層ご無礼なことをしてしまって…いやはや…なんとお詫びしてよいやら…大変失礼致しました」
深々と頭を下げてくる老執事。
(王様の息子?)
(じゃあ、こいつは王子ってことか)
とっさに彼の頬を叩いてしまった無礼を恥じたが…
…抱きしめ、初対面でキスをしようとした無礼者だ。
(なんて無礼な奴だ)
王族の獣人青年ーーユキを、キッと睨みつける。
睨まれた方の青年はばつが悪そうに目を逸らし、しょぼんとモフモフの耳を下げて立派なふさふさの尻尾を足の間に挟んで隠してしまう。
犬科の典型的な『ごめんなさい』のポーズだ。強いストレスを感じたり、叱られた時にするポーズだが…あくまで『ポーズ』であり、本当に反省しているかどうかは謎だ。
その証拠に、ハルが睨みつける=自分のことを見てくれている、興味を持ってくれていると判断したのか、青年の尻尾のさきっちょは小さく、ゆっくりと左右に振れ始めた。
(…だめだあいつ、絶対!全っ然!悪いと思ってない!!!!)
「…本当に、どうかユキ様のご無礼をお許しください。こちらへどうぞ。我が主君の城へご案内致します」
老執事が、こちらへ、とうやうやしく先導してくれる。
「ねえ、可愛いね。初めまして。名前は?おれユキだよ。ねぇこっち向いてよ」
嬉しさを隠そうともせず、尻尾をぶんぶんと大きく振って歩く王子ユキ。
「ねえってば」
「ハルです」
「ハル!かわいいね。どこから来たの?」
(うぜえ……!!!)
文句を込めて睨みつけるハルと目があったユキはパッと顔を綻ばせ、にっこり笑った。
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