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27.うなじの傷**
28.
(……明日10時、行かなきゃな……)
快楽の余韻でぼんやりしたままそう思う。ひとり卑しく自慰にふけって、明日本人の前でどんな顔をしたらいいのか。
シャワーコックをひねると熱い湯が降り注ぐ。精液、潮、愛液でヌルつく股間を洗う、その自分の指の動き。冷めぬ余韻で身体が震える。
「は、!ぁ…ッ……」
(さわってほしぃ……)
あと何度願えば、叶えてもらえるのか。
はぁ、はぁ、と荒い息をつきながら、カーラーの内側に手を滑らせる。オメガのうなじはアルファのために有る。うなじを噛まれれば番となり、一生の伴侶となる。うなじはオメガの急所であり、愛する人に捧げる大切な場所だった。
熱い湯を頭から浴びながら、ハルは自分のうなじに触れる。
(ここ、良いにおいするって、言ってた……)
(オメガのフェロモン?)
ユキにうなじに触れられた時のことを思い出す。初めて他人に触れられた、そこ。
噛まれると思った。噛まれて、つがいの関係を結ばされて、孕まされてしまうと思った。オス、そしてアルファへの本能的な恐怖。他者に絶対に触れられたくない、触れさせたくない所。そこへ、触れられた。
(舌、長かった…)
カーラーの内側へ、ぞろりと侵入してきた獣人の長い舌。ねぶられ、陵辱された。この薄い皮膚に、歯が食い込んだら、自分はどうなってしまうのか。そう思うと感情がたかぶり、衝動の赴くままにカーラーの内側、うなじに爪を立てた。
「ひ、ぅ……!ゥ…!!ぅ、!!」
痛い。だけど愛する者とつがうための痛みなら?痛みを超えた先で愛するものとつがえるのなら…と思えば我慢することができた。
(もっと、深く噛んで…!!)
(噛んで…噛んで…!!俺をメチャクチャにして……!!)
・
・
・
「…ハル、それ、どうしたの」
「え?あぁ、これは…」
翌朝、10時。
約束通り大学院の研究室でユキと落ち合ったハルは、顔を合わすなり昨晩の痴態の名残を指摘されて顔を赤くした。
指摘されたのは、首に巻いた白い包帯のことである。元々巻いていたカーラーと合わせて二重に首を隠すそれは、昨晩"うなじを噛まれる妄想"で自慰にふけってしまった結果、赤いひっかき傷をいくつも首に付けてしまって、今朝ハルが自分で巻いたものだ。
後先を考えないほど盛り上がってしまった昨晩の自分も恥ずかしいし、妄想の対象と朝イチで顔を合わせなければならない気恥ずかしさもあり「それどうしたの」とユキに面と向かって訊かれて、ハルは顔を上げることができない。
「えっと、その〜…怪我した」
「見せて」
「え?あ…!!?」
ずんずんと迫ってくるユキ。壁際に追い詰められたハルは強い剣幕のユキに顎をがっと荒々しく掴まれ、身動きが取れなくなる。
スンスンと首筋を嗅いでくるユキ。アルファ特有の絶対的帝王感に萎縮しつつ、急激に近づいた距離で腰が甘くうずいた。
「…びっくりした、昨晩のうちに誰かに噛まれちゃったのかと思った」
「え、まさか…」
ひとしきり匂いを嗅いで異常がないことを確認したのだろう、至近距離から恨めしげな目で睨んでくるユキ。
「ほら、ほんとにひっかいただけだって…」
そう言って、不本意だがカーラーと包帯を指でずらして傷を見せてやる。
「うわ痛そう…でもよかった!またこの前(ep.10)みたいなことがあったらどうしようかと思った!あ〜〜…ハル…おれのかわいいハル…」
ユキはハルをぎゅうぎゅうと抱き締め、ハルの身体を軽々と持ち上げた。急に足が宙に浮いたハルはバランスを崩して、慌ててユキにしがみついた。
「わっ💦な、なんだよ!降ろせよ!」
「ん〜〜…もうすこしこのままでいさせて。ハルの傷が早く治るようにおれが癒していてあげる」
「…しようがねぇなあ」
抱かれたまま、ユキの肩に頭を預けて広い背中をぽんぽんと叩いた。
「…心配しないでも、おれにはおまえしかいねぇよ」
「えっ?」
「二度も言わせんな!」
ぽかりと背中を殴ってやると、うへへへ、と嬉しそうに笑いながらユキはハルを下ろした。
(早く傷が治るように、か)
(ほんとは、おまえに一生消えない傷を残して欲しいんだよな、ここに)
胸の中でそっと呟いて、ハルはうなじの傷を撫でた。
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