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41.花のかおり
「〜〜〜ッだぁ!ユキ!おすわり!」
四魂の玉を探す半妖の犬◯叉に命令するヒロインよろしく、鋭く命令するハル。
「あっいま初めてちゃんと俺に名前で呼びかけて……」
「うるせえ!今日はもう終わりだ!寝るぞ!」
「え〜〜〜〜っ」
「ぶーぶー言うな!おまえは犬だろ!黙って犬になってろ!」
「はぁい……」
獣型に変化するため、ぶつくさ言いながら服を脱ぎ始めるユキ。
急な肌色に慌ててハルは背を向けて、洗面所へ逃げ込んだ。
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歯磨きと身支度を整えたハルが寝室へ行くと、ベッドのうえに同じく寝支度を整えた一匹の獣が寝そべっていた。
キングサイズのベッドからはみ出しそうな、トラほどもある大きな身体。
モフモフに目がないハルは、ふかふかの布団より暖かいモフモフに喜んでダイブした。
「ふぁ〜〜〜…♡ふかふかだ…♡」
眠気もあって、心なしか甘ったるい声になってしまう。
手足をいっぱいまで伸ばしても抱えきれない体躯。
背中の毛はすこし太くて固い。
おなかの柔らかいあたりは毛質も柔らかくて、肌触りがいい。
抱きしめられた獣は、嬉しそうにばさばさと尻尾を振り回した。
「もうおまえ一生この姿でいてくれよ、なあ?」
獣の姿では人語を話せない。
ハルはユキの心のなかを知ろうと、金色の瞳を覗き込んでみる。
ユキは答える代わりにハルの頬をべろりと舐め、大きな尻尾を振りまわしてじゃれてきた。
「あ、コラ、ふふふ…!」
ハルは獣の大きな頭を撫でくりまわして、思いきりモフりまくる。
獣はどこを触られても嬉しいらしく、ベッドのうえでヘソ天して『撫でて!もっと触って!!』と大喜びしている。
ハルは宙に浮いた獣の前足と握手して、大きくて硬い肉球と黒い爪を観察する。
マズルからぴょんぴょんと飛び出た愛嬌のあるヒゲ。
毛の薄いところがピンク色に見える、三角の耳。
ずらりと並んだ犬歯見たさに獣の唇をめくったときはさすがに怒られるかな…と思ったが、獣はハルの指をぺろりと舐めただけだった。
筋肉が発達した力強い四肢をあちこち見てモフりまくったハルは、ようやく満足して幸せなため息をついた。
おもちゃにされて疲れた様子の獣。
耳をかゆがって後ろ足で掻く姿は、まさしく犬だ。
その前足をハルは抱き枕のようにして抱えこみ、獣の呼吸で上下する柔らかい腹に、頭を預けた。
(あ〜〜〜犬くさ………最高………)
(あとなんだろ……こいつの…花みたいな…)
初めて会った時にも嗅いだ、甘い花のような香り。土と木と、大地の香りが混じり合ったようなそれ。
嗅いだ瞬間に、身体が熱くなってしまうその効果。
…ここで『におい』の信号は直接"脳"へ届く、という話をしよう。
人間の脳は、脳幹、小脳、大脳辺縁系、大脳新皮質と大きく4つの部位からなっている。このうち大脳新皮質は、人間の進化の過程で新しく発達した脳で、思考や理性を司る脳だ。
一方、人間が進化する前の性質である、食欲、性欲と言った本能的な行動、あるいは喜びや悲しみ等の情動、記憶を支配しているのが、古い脳「大脳辺縁系」であり…
嗅覚からの情報だけは、思考や理性というフィルターを通さず、直接人間の記憶や情動の脳に情報が伝達される。
香りの刺激が脳に伝わるまでの速さはわずか0.2秒以下。
嗅覚は人間の五感の中で最も本能的で、原始的な感覚であり…
性フェロモン、体臭、性的魅力、男性ホルモン…
遺伝子レベルでの相性の良さ。それぞれが持つにおいが空気中で混じり合い、本人がそれと気付くよりさきに心や身体に作用し…
運命のつがい、対となる存在に、オメガの本能が反応していたのだ。
(良い、におい………)
そして今夜も花の香りに包まれ、すこしずつ、身体が熱くなっていく。
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