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54.プライドを賭けて

「グゥ…グルルル…」 「?」 (なんの音だ?) 突然、ふたりきりの塔の部屋に響く、低い唸り声。 それはユキの喉から漏れていた。 「グルル……ゥゥゥウ…」 「ユキ…?」 こんなこと、今までなかった。 ハルの本能が警告音を鳴らす。 「ゥゥゥヴ…!」 ゾッとした。ハルをベッドへ組み伏せているユキの腕。そこに、ざわざわと、ゆっくり毛が生えていく。 予告のない変化(へんげ)。 ーーしかも、行為中に。 ユキの、まだヒトの形を保っている顔が、じわじわと変わろうとしていた。 (……!?) ハルはベッドの上で後ずさろうとして… 興奮状態の獣にのしかかられ、逃げ場をなくす。 デカすぎる一物は先端の皮が剥けて、真っ赤なペニスが露出している。ハルは長く太い、グロテスクな赤色に怖気が立った。マウンティングの続きをしたいのか、挿入したいのか、獣は先走りでヌラついたそれを、何とかしてハルの身体になすり付けようと迫ってくる。 「おまえ…っ、うわ…!痛!痛い!」 「グルル…ゥゥゥヴ!…」 獣の鋭い爪が、ハルの皮膚に刺さる。ハルの上に乗ろうとして位置を測り兼ね、ハルの身体にいくつも擦り傷を作った。 獣は興奮しきってハルの顔をフンフンと嗅ぎまわり、揉みくちゃにする。そして首元のカーラーを長い舌で舐め回した。 カーラーを簡単に噛みきれそうな、ずらりと並んだ鋭い牙、ざっくりと深く割れた口。ハルは恐怖を感じる。もし、カーラーを噛み切ろうとする牙が、自分の首に当たったら? ーーハルの薄い皮膚など、簡単に裂けてしまう。 「やめろ!おいっ!」 「ガウ!ガウ!」 払い除けようとするハルに吠えかける獣。 (ダメだこいつ、完全におかしくなってる…!) ハルは拳を握って…… 「この………バカ犬!!!!」 鼻面を容赦なく殴り飛ばした。 「キャウン!!」 「セックスで興奮して変化するんじゃない!!!!このクソ童貞野郎!!!!!」 「クゥン…」 出鼻を挫かれた(誤用)獣は、びっこをひいて縮こまった。耳を伏せ、尻尾を丸くした姿は、まさしく興奮しすぎて飼い主に叱られたデカ犬である。 ユキはそのまましゅるしゅると小さくなり、ヒトの形に戻っていく。 「入れるなら入れる!!入れないなら入れない!!!」 「キューン…」 「正座しろ!そこに直れ!」 「おれ足長いから正座できない…足首の柔軟性無いし…」 「欧米人みたいな言い訳するな!」 「サムライの国、こわ…」 素っ裸で、なんとかベッドの上で膝をつく獣人の第一王子。 『禁欲するとY精子が増えるんだって』 『ほんとにエッチするのは、発情期が来てからね』 そんな誓いを(勝手に)立てられた三十三話… 「禁欲しすぎて理性ブッ切れるくらいなら、さっさとヤればいいだろ!」 「だ、だって…精子のY染色体が……赤ちゃんは男の子が多い方が…」 「おれはヤりたくて死にそうなんだ」 「お、お、お、俺だってそうだよ!!」 「…じゃあ、はい///」 ベッドにひっくり返り、はじらいつつお尻をユキに向けるハル。まっさらですべすべ、ぷりぷりのお尻である。 「当然そんなこと言われても…」 ユキは自分の股間を見下ろす。殴られ、説教をされ、そこはすっかり虫の息である。 「勃たせろ」 「えーー…そんな…」 「逃げちゃダメだってシンジ君も言ってたろ」 「人と人が理解し合うことは決してできぬ、 人とはそういう悲しい生き物だってゲンドウ君が言ってた」 「俺に乗れ、でなければ帰れ」 「ここ俺の家(城)だけど……」 ぶつくさ言いつつも、なんとかして勃たせようと自分のナメクジをクニクニしてみる童貞王子ユキ。 ーー童貞と処女のプライドを賭けた戦いの火蓋が、ここに切って落とされる。

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