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58.遠距離恋愛、二日目

朝起きると、新着メッセージが届いていた。 『連絡できなくてごめん。さっき着いた。今の所異常なし』23時45分 『そっちはどう?』23時46分 『もう寝ちゃったかな』23時55分 『おやすみ』01時30分 (よかった、元気そうだな) なんて事ない事務的な連絡に、ほっと一安心する。 でも。 「……おはようは無いのかよ」 今は朝の7時だ。01時30分に『おやすみ』と連絡があったから、ユキが就寝したとすればそれ以降。まだ寝ている可能性もある。分かっていても、ハルは重箱の隅をつつくように難癖を付けてしまう。 (遠距離、しんどいなー…) 二日目の朝で、これだ。 (でも、明日には帰ってくるんだし…) ベッドでダラダラしながら返信を打つ。 『おはよ。お疲れ。無事着いて良かった。こっちは問題ない』07時24分 『今日の予定は?』07時25分 ーー返信は、ない。 * 午後になる頃には、ハルも薄々気付き始めていた。 ーーこれは、『運命の相手』に会えないココロが、悲鳴を上げているのだと。 (はー…しんど……) (頭ぼーっとしてくる…) ユキと出会って、気が付けば、一緒にいることが当たり前になっていた。 大なり小なり試練や課題はあったけれども、ユキのそばにいるだけで、満ち足りた、居心地の良さがあった。 約束していた自分の居場所に収まるような、不思議な安心感があった。 毎日のようにドロドロに愛されていたのに… それが、今はーー 言葉では言い表せない、不安感。 どこか、息苦しさがある。 実際に、呼吸を忘れている瞬間もあった。 深呼吸をして、前向きに気持ちを切り替えようとしても、上手くいかない。 世界から色が消えたように、ハルだけが灰色の泥水に這いつくばって、足掻いている。 ーー自分の『半身』がそばにいない喪失感に、ココロが張り裂けそうだった。 「…大丈夫ですか?」 「…え?」 また、心ここに在らずになっていたらしい。 15時のお茶の時間である。ティーカップに指をかけたまま放心していたハルを、老執事が心配そうに見ていた。 (そういえば、あいつが行っちまった朝もこうやって心配されてたっけ) (あれは予兆だったんだな…) 「大丈夫です。ちょっと疲れただけだと思う」 「とてもそうは見えませんが…」 「あーー…少しだけホームシックです」 まさかパートナーが不在で不安定になっているなどと言えなくて、二番目、三番目の理由を主題に上げてみるハルであったが。 「ユキ様がおられなくて、心細いのではと」 「…バレてますか」 「私はいつでもお側でお二人を見て参りましたから」 「そうですね…実は、あいつとケンカしちゃって」 「喧嘩を?ユキ様とハル様が?」 老執事は目を丸くする。 「小競り合いはいつもしているんですけど、今回はちょっとそれとは違って、その…今後の方針?みたいな…主義主張が、あいつとおれとでは食い違ってて…」 「なるほど」 「おれが悪いんですけど。謝ろうと思ってたら機会を逃しちゃって…」 「ふうむ」 「執事さんはあいつが小さい頃から知ってるんでしたよね?どうでしょうか、戻ってきてから直接謝った方がいいですか?それともスマホのトークで謝ってもいいでしょうか?……って、どうして笑ってるんですか?」 話を聞きながら、ニヤニヤし始めた老執事をハルは怪訝に思う。 「いえ、お若いなあと……あっこれは失言を!お気を悪くなさらないでくださいまし」 「若い、ですか?」 「ご安心頂きたいのですが、あのお方が怒るなんてこと滅多にございませんよ。特にハル様には」 「はぁ…」 「お気になさるようでしたら、トークで十分だと思います。その頃にはユキ様は何のことやら忘れているかもしれませんが」 「そうですか…?」 「親しい仲であればあるほど、大体のことは『あの時はごめん』で、全て水に流せます」 「そうでしょうか…」 「なるほど、それでしばらく塞いでおられたのですね?大丈夫、ご心配要りませんよ!ささ、どうぞ爺やの焼き菓子でも召し上がって元気を出してくださいまし」 老執事はハルを勇気付けるように微笑んで、温かい紅茶と焼きたてのスコーンを勧めてくれる。ハルは香ばしい小麦粉とバターの匂いのするスコーンにたっぷりのクロテッドクリームとジャムを乗せて、頬張った。 「美味しいです」 「良かったです。お二人のお戻りは明日の夕刻頃になるかと」 「あいつ忙しいのか、全然返信くれないんですけど。王様の方は連絡着いてますか?」 「お元気になさってるそうですよ。王族騎士の方からも連絡はこまめに届いております」 「良かった。あまりにも返信が無いから、何かあったんじゃないかと」 「お元気になさってるそうです。逆に、歓迎されすぎて大変なようですよ」 「歓迎?」 「昨晩も、我が王と蛇族の王とで、遅くまでお酒を交わしていたようです」 「意外ですね。蛇族は気質が荒いと聞いていましたが」 「わたくしもそのように予想しておりましたが、いやはや…噂は噂しか過ぎない、ということでしょうか」

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