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61.遠距離恋愛二日目、通話終了

61. 「おれのこと、見つけてくれてありがとうって言いたいのっ!」 こんなこと、シラフじゃ言えない。 言えたのは、電話越しだから。 相手の顔が見えないのに、どうしてこんなに簡単にほんとうの気持ちを口に出せるんだろう。 『どうしたの急に』 そう返してるユキの声は、弾んでいる。嬉しいのだ。 ハルはそれが嬉しくて、気恥ずかしい。 「おれ、あんまりお前とこういう話、したことないじゃん…」 『そうだね。まあそれを言うなら俺の方こそハルに生まれてきてくれてありがとうって感じなんだけど』 「黙れっ!今はおれがお前に感謝の言葉を述べるターンであるぞ」 『んはは!』 あ、声出して笑った。 きゅん、と胸が切なくなる。 「あ〜〜〜…そんで…今日はおれがお前に感謝を…えっと…もごもご…」 『(笑)ねえ、無理してない?そんなに頑張って何かしようとしてくれなくったって良いよ?』 半分嬉しそうで、半分本気で心配してくれているらしい。 ユキのそんな顔を思い浮かべながら、ハルはもう少し頑張ってみる。 (…変な汗かいてきた…!) (顔も熱いし…!) ーーもし、電話じゃなかったら。 もし電話じゃなかったら、会えていたら。 気恥ずかしさでいっぱいの顔を、ユキに見られないように、その胸に埋めてしまうのに。 それで、そのまま会話がうやむやのまま…… 言葉に詰まってしまったハルを、ユキが電話越しに優しく諭す。 『こう言う時は何て言うのが正解なのか、前にハルに教えたよね?』 「…なんだっけ…」 『ヒントをあげましょう。頭文字は"あ"です』 思い出す、そのセリフ。 いつだったかユキに言わされた、アレだ。(44話参照) あの時も確か、『ハルはもっと素直になる練習しないとね』と言われた、気がする。 「……………」 『もしもーし』 素直。 素直に…? 「あ、……」 『んふふ…』 ドキドキと胸が鳴る。顔が熱い。心臓が破裂しそうだ。 「…あいしてる…」 言った途端、一層身体が熱くなった。 『上手に言えたね』 「……恥ずい……!」 (なんてこと言わせるんだよ…!!) 「お、お、お前はどうなんだよ!!!!」 『俺?』 「おれがちゃんと言ったんだから、お前も言えッ!!」 『…言ってほしいの?(笑)』 「う…!!!!」 (これじゃあまるで、催促したみたいじゃんか…!) 墓穴を掘った事に気付きながらも、ハルはきつく目を閉じて、スマホの受話器に耳をそばだてる。 『愛してる、ハル。世界で一番』 「……うん…」 機械越しの声。 すぐそばにいて欲しいのに、こんなにも遠い。 『いますぐ抱っこして、ぎゅーしたい』 じわりと、目頭が熱くなる。 (あ……ヤバい………) 「だ…だっこして、ぎゅーするだけ?」 布団の中で絞り出した声は、震えていた。 広いベッドに、たった一人。 『………ぎゅーして、………』 「うん…」 ずび、と鼻を啜った。 『…チューする』 「…ちゅーだけ?」 ぽろぽろと溢れてくる涙を袖で拭いた。 『………えっちなキスがいい?』 「ちが……くて………」 嗚咽しそうになる。 『…ねえ、もしかして、泣いてる?』 「泣いてねえッ…!誰が……ッッひ、ひぅ…!!」 スマホの向こうで、今ユキはどんな顔をしているだろう? (たった数日会えないだけで、おれはこんなにもこころがめちゃくちゃになってんのに…!!) 「い、いますぐ、だっこして、ちゅーして、よしよしして、…!」 『…うん』 「……だっこされたまま、一緒に寝たい…っ!」 『………うん、そうだね………俺もそうしたい………』 「バカっ…!ドあほ……!!!」 『…ごめんね』 「出張なんて、ぅ、行きやがって…!」 『…………』 「おれがっ、どんだけ、ッ寂しいと思ってんだっ」 『…ごめんね…』 「毎日連絡よこせっ!それからっ、…!」 『それから…?』 予定通りなら、明日帰ってくる。 明日の夜。 ユキに会える。 そしたら…… じゅわ、とハルの下半身が濡れた。 「次会った時は、覚えてろよ…!!」 『なにそれ(笑)』 「もーいいっ。もう話さない」 『え〜〜〜〜(笑)』 「察しろ!!バカ!!!」 『………俺のことバカって言うの、父上とセバスチャン(老執事)とハルくらいだし…』 「身内にバカって言われてるくらいなんだから実際そうなんだろっ」 『…………え?』 「え?????」 『え?』 「……え?待って……?」 『…?ごめん、ちょっとよく分からなかったからもう一度言ってくれる…?』 「え…!?っ…!?な、なんでもない!お前の聞き間違いだろ!?」 『…?え?』 「や、やめようこの話は!!!!」 『え、でも…』 「ほら、もう夜もこんな時間だし!!明日!ほら、明日帰ってくるんだろ!?」 『うん、その予定だけど』 「もう明日に備えて休んだろうがいい!そうだろ?」 『ああ、うん、まあ…』 「よし!寝るぞ」 『あ、じゃあ最後に一つ俺からも話したいこと…っていうか訊きたいことがあるんだけど、いい?』 「な、なんだよ…!」 『昨晩はひとりでシた?』 「は?」 『だってほら、ハルはいま性開発中じゃん、だからちゃんと毎日……』 「おやすみ」 ハルは迷うことなく通話終了ボタンを押した。

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