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「うわっ、これ、桃味だ…」
口の中に広がる甘さは、男性を満たす物では無かった。どちらかと言えば、ブランデーが利いている大人の味が好みだ。
桃といえば、イザナギノミコト。
黄泉比良坂から逃げ出す時に、持っていた桃を投げつけた。
「ー…祖母様、鬼畜…」
チョコレートの味が解った所で、彼は荒野地帯から、楠野帝邸へ、向かおうとした。
しかしながら、何か。
忘れている事に、気付いた。
「あ!桃って、鬼女が嫌いなんだっけ?確か、迥が…そう、教えてくれたような…」
急いで、鞄の中に入っているノートを出した。
これは…。
漆津夜が、常に、愛用しているノートである。
教えられた範囲を復習しながら、問題を解いているのだ。迥が出す問題は、凄く、面白く、興味が湧くものだった。
なので、欠かさず、持ち歩く様にしていた。
例えば…。
今の状況である。
イザナミノミコトが、棲むとされる荒野地帯に、刺さっているハート型のチョコレート。
原料が、鬼女が嫌う桃味だ。これには、深い意味があるんじゃないかと、思った。
「あったぁ。えっと、イザナギノミコトが裏切って、中を覗いたのが、始まりだよね。で、怒ったイザナミノミコトが、部下と一緒に、追いかけて来る。その時に、天界にある桃を投げた。元から…桃が、駄目じゃん…」
ノートを読んでいた彼は、思わず。
ツッコミを入れたくなった。
そして、頭の中で、何かを作り始めた。
「イザナミノミコトには、悪いけど、これ、小説に使わせてもらおう…」
安易な考えに見えるが、決して、面白いからという、興味本意や悪戯とかじゃなく。
何故…。
桃味のハート型チョコレートなのかを、聞きたかったからだ。
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